月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

無職の俺に降って湧いた話 第四話

 

 これまでの話 1~3話 ↓

rasinban.hatenadiary.jp

rasinban.hatenadiary.jp

rasinban.hatenadiary.jp

 

If

If

 

これまでのあらすじ (1話~3話)

『無職の日々が淡々と過ぎて行く。ある日、友人に「(株)君がいて、ぼくがいる」という怪しい会社のアルバイトを紹介される。

 バイトはフレーム部にWEBカメラ・レンズ部にモニターを搭載した「メガネ」を装着し、モニターに表示された三択の中から依頼を選ぶことが出来る。

 依頼人にその「メガネ」を通した映像を配信すると同時に、依頼人が望むことをクリアすることで報酬が得られるという珍しい仕事だ。

 とまどいながらも、実際にネットバンクに入金されていることを確認すると、無職の肩書を背負っていた私の心の中に妙な高揚感がわいてきた…。

 

 それでは、つづきです ↓

 

 ー ー ー ー 


「Bsgirlというグループの限定クリアファイルを並んで手に入れる」
それが出来れば報酬が得られる。
それだけが今日を生きる上での完全なるモチベーションだった。
朝はたいへん冷え込む季節だというのに、私の前には数人が並んでいる。
後ろを振り返れば、さらにその何倍も並んでいる。
この時点では余裕で依頼をクリアできると思っていた。
仮に限定20名だったとしてもGetできる位置取りだったからだ。

しかしそのとき、急な展開が目の前で起きた。
突然、私の前に並んでいた連中が急に列から引き離されだした。
依頼された時間内に要件を済ませることが出来ないかもしれないという、嫌な予感がした。
どうやら私の前に並んでいた数人が、これまでのイベントで問題を起こしていた連中だったらしく、警備員に列から引き離されたのだ。
その時、何故か私の腕をつかんだ一人の男が叫んだ。
ブラックリストに載っていると思われる輩が、こいつも仲間だと叫んだのだ。
そう、私の目の前にいた「Bsgirl」と書かれたキャップをかぶっていた野郎だ。
私は一瞬、どうしたらいいのかわからなくなった。

 

私は素直にブラックリストの連中と一緒に場内の一室に通される。
仮に指定時間以内にクリア出来なかった場合、ペナルティはあるのか、規定ではどのように定められていたのか覚えていない。
呼吸が苦しくなるほどの不安が沸いてきて、もうそのことで頭がいっぱいになった。


 ー ー ー ー


無機質な部屋で私は待たされていた。
1人1人がイベント関係者に尋問され、やっと最後に部屋の隅に居た私に順番が回ってきた。
もう、すでに依頼予定時間を過ぎていた。
私は「なにもしていません」と一言だけ言った。
すると、イベント関係者は

「でしょうね。そう思います。災難でしたね…でも、なぜもっと強気にあの場で否定しなかったのですか?あなた…」

と何故かイライラされて、その後20分くらいだっただろうか、説教され、挙句の果てには私の性格を否定し始めた。

 

イベント会場から解放された後、震え声で勤務先に電話した。

『お電話ありがとうございます。こちら「(株)君がいて、ぼくがいる」でございます』

担当社員は電話をかけた私が要件を達成できなかったバイトの人間だと分かると、急に口調が気だるそうに変わった。

「あらかじめ会社の方からクリア出来そうな要件をですね、あなたの能力を見計らったうえでの依頼内容が三択であなたに用意される。その意味がわかります?」

 今日のように依頼時間を過ぎて、しかも要件も終えることが出来なかった場合の遂行人に対する会社の態度は冷たいものだった。
電話越しに伝わってくる社員の怒りが怖かった。
数分前、イベント関係者に

「自分を主張できないことがあなたの弱さの一つだよね」

と言われたことが思い起こされ、喉の奥が重く熱くなってきた。
電話を終えると、ゆっくりとポストに近づき、「メガネ」を返却する。

 「もうバイトはやめよう」

そんな言葉だけ小さな声となった。


 ー ー ー ー


翌日、前回は給与が振り込まれていた昼間の同じ時間に、

「それでもネットバンクに入金されているかもしれない」

と確認してみたくなり、恐る恐るアクセスしてのぞいてみた。
入金されていない。あたりまえだろう。
脱力したまま、何とか横になり天井をみつめる。
急にスマホが震えだし、いつの間にか寝ていたことに気付く。

『(株)君がいて、ぼくがいる』からの電話だった。
急に心が重くなる。
怒られるのだろうと、そう思った。
きっと昨日の依頼をクリアすることが出来なかったことで依頼主が怒り、それが会社の担当社員に伝染し、逃げ惑う私のもと目がけてやってきたのだろう。
それでも、なぜか電話に出ようとする私がいた。
そうだ。
もう辞めますと言えばいい。
あの時は、そんなことも言えなかった。
突然、仕事をやめた以前とは、せめて違っていたい。

「お前はそれでも大人か?社会人なのか?」

震えるスマホを手に、思い出したくない過去の記憶がよみがえる。
でも、ほんの数分耐られれば、それでいい。
何も得ることのないままに終えたくない。



 ー ー ー ー


私は電話に出たことで、その時にはじめてこのバイトの先に広がる闇を感じた。

「先ほど入金させていただきましたから」

という報告の後に、

「依頼主が思いもしなかった映像が見られたとすごく喜んでいて、君がこのバイトを辞めないようにと伝えてくれと…」

と続いた。
私に依頼した人物は、私が一方的に責められる様を楽しんでいたのだ。
これまでにないほどの情けない気持ちになり、久しぶりに私は泣いていた。





 ー ー ー 



あしたにつづく…。