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( >д<);'.・月詠み 日々 細胞分裂・∵.

- ネットの深海から泡沫の言葉を海面に向けて放ちます -

「真相は穴の中」第七話

『短編妄想話』

これまでのあらすじ

 この村では行いが認められると村長から「歳」が与えられ、過ちを犯せば「減歳会議」が開かれ歳を取りあげられる。仮に歳が「零」になった場合には、霊山の頂上にある深い穴へ葬られるという習わしがある。

 ある日、他民族に村の娘達が連れ去られた。村一番の暴れ者だった男(シュウ)は独りで娘達を連れ戻した。男はその行いが認められ、村一番の歳を得て村長となることになった。それからは人が変わったようにして、村の為に尽力する村長だったが、ある日その村長が「減歳会議」にかけられる。
若き村長に憧れを抱いていた少年はその理由が気になり寝付けず、その晩に村長の元へ近づく。

 少年は村長に誘われ霊山の山頂へ向かうことになった。その道中、村長は他民族との争いを振り返り、語り出した。
あの日、歳を失い処罰の為に霊山の穴で死んだはずの幼なじみを、他民族との争いの中で目にしたという。

死んだと思われていた男(ラッカス)は、互いに想い合っていた娘の助けと霊山の穴の中で生まれ育ったという得体の知れない者との共存によって生き長らえていた


つづきです…


ー ー ー ー



はるか遠くに見える山の尾根を静かに見つめていた。
やがてその一角の明度があがると、丸い光が昇りはじめた。
それを目の当たりにした瞬間、それまでの悲しみが癒されたような気がして、自然と手を合わせていた。
穴の中の灯りとはまるで違う、この身を貫くような、それはまっすぐな強い光だった。

「頼んだぞ…」

あいつの、ラッカスの声が聞こえた気がして、這い出てきた穴の方を振り返った。
ここからあいつが降りてきて、新しい時を刻み始めたのだ。
それまで独りで穴の外へ這い出る方法を模索し続けていたが、独りではどうにもならないという結論に達し、はるか昔に諦めてしまっていた。
それでも、今、ここにいる。
全てはあいつの御かげだ。


地表から降りてきたあいつの風貌と比べてみて、やはり人とは違う姿をした生き物なのだと感じた。手足がヒレのように平らで細長くなり、枝分かれした指がない為に母親やあいつのように器用に道具を扱えなかった。顔も目鼻がしっかり配置されておらず、人が見れば肉を大きく引き伸ばした別の生き物にしか見えなかったのではないだろうか。
あいつがこの姿を見れば距離ができるのではないかと接している間に不安になり、警戒の為に身にまとったはずの布切れは最後まで脱ぐことはなかった。
母親はこの姿をどのように思っていたのだろうか。憐れんだのだろうか。悲しんだのだろうか。いつかこのように、心通わせる誰かとまた会話をし、成長し生きている姿を想像してくれただろうか。
あいつと一緒に居ればなにか満たされるようなこの感情は、本当に不思議なものだった。
共に生活をすることに慣れてくると、ずっとこのまま穴の中でもいいような気さえしていた。あいつももしかしたら同じ気持ちではなかっただろうか。
それなのに、なぜあの時「外に出たいか?」と聞いたのか。聞かなければその可能性や希望抱かせることもなく、もっと楽に死を迎えさせてやれただろうか。

上空から何も落ちてこなくなってからは、穴の外へ出ることが急務となった。
もともと穴の住人ではなかったあいつは、穴の中で手に入る食べ物が合わなかった。
降ってきた食料はすぐに底をつき、いよいよ煮沸した水だけを口にするようになると、一気に体が衰弱していった。
それでもあいつは、半身を起こし指先を動かして、簡単には外に出ることを諦めなかった。弱った腕を支え、徐々に視力を失い始めれば寄り添い目の代わりをして作業を続けた。
まるで二人で一つの生き物のようにして動いた。
昔に千切れ落ちた幾本の縄梯子を元に、布切れを細かく刻んで編んではそれを器用に繋ぎ合わせ修復し、その梯子を幾つかの数に分けた。
何もない空中に縄梯子を浮かべて一度に昇り切ることは不可能だが、所々段々と突き出た岩を円を描くようにして回り込みながら、岩の起伏を上手に伝って行けば梯子がなかろうとある程度の高さまで昇れることを確認できていた為だ。
だが、そこから先にある困難な高さは梯子で補わなければならない。
金槌と杭がどうしても必要だった。金槌は革袋に入っていたが、杭は頼りないものが数本しかなかった。あいつが体を休めている間、岩をぶつけ合い、ひたすら作り続けた。
最後に革袋と金具を組み合わせ、滑りにくい手袋と靴を作り上げた。

「あぁ…どうやら一人分を作るのが精一杯だったようだ…」

途中であいつは小さく笑い、軽く息をついてからそう告げた。
あいつは、なかなか言い出せずにいたのだと思う。
出来上がった道具は手袋も靴も、歪な形をしていた。
密着して作業に当たる中で、その形を測り作ったのだろう。
それから程なくして、横たわったまま起き上がらなくなった。

ラッカスは一つの願いを託した。
それを胸に地表へ這い上がった。
これから山道を下る。
道の先には、母親が生まれ育った村があるはずだ。




ー ー ー ー


昨晩、村長が「減歳会議」にかけられた。
この村の歴史の中でも初めてのことで、皆が不思議に思いつつも話題にするのを避けていた。重苦しい雰囲気のまま、その日、一日は過ぎていった。
夜が明けると村長は姿を消していて、皆がその行方が霊山だと噂する最中、その会議が行われるに至った理由が突然明らかになった。
それは数枚の文面で、誰も知らぬ間に集会場の壁に現れた。
村長の名、「シュウ」という名が添えられている文面には、この村の儀式について書かれていた。
霊山の穴に関する儀式とはまた別の、「敵対する民族」との秘密の繋がりについてだった。
古くから各々の民族は狭い範囲で血縁が続き、血が濃くなることで様々な災いに見舞われることを恐れてきたそうだ。そこから免れようと近隣の民族間で取り決めを行い、娘たちを差し出す儀式を行っていた。当時は人さらいの形ではなく順を追ったものであったが、次第に関係性が崩れていくなかで、儀式だけは形を大きく変えながらも存続したのだという。
敵対しながらも、互いの民族の存続のために繋がりあったというわけだ。
取り決めの周期については、霊山の穴へ誰かが降りると進展があり、その他の要因と相まって日時が定められると記されていた。
異民族とは使節を使ったやり取りが秘密裏に交わされ、儀式の日には村の警備が手薄になるように計らっていたそうだ。
事後、その周期に巡り合ってしまった娘達と村長をはじめとした村のごく一部の者達で口を合わせ、ずっと隠し通してきたことになる。
あたしの小屋は順番からして後の方だったのだろう。
一緒に村まで逃げ帰った娘達の中には、その年、子を産んだ者もいた。
シュウ兄は当然、その儀式を知る由もなかった。異民族の男達を倒し娘たち全員を連れ戻った。
しかし、それもあと数日もすれば娘の多くは村に返される取り決めがあったいう事実を、前村長からの受け継ぎの儀で知らされたとある。
村長になり、それらの内情を酌んで秘密を守っていたものの、他国との繋がりの中で自然にこの問題を解決できるようにしたいと上の者を集めた集会で意見を述べたそうだ。
しかし、皆に反対され、結果として村長は「減歳会議」にかけられ、今はもう村には居ない。
…もう居ないのに、誰がこの文面を集会場に張り付けたのか。



ー ー ー ー


…つづきます



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