月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

無職の俺に降って湧いた話 第十一話

 

ハイホー

ハイホー

これまでのあらすじ (1話~10話)

「(株)君がいて、ぼくがいる」という企業名の会社が業績を伸ばし続けている。

 この会社の提供サービスの特徴は「依頼主(消費者)の頼みごとを「ミッション遂行人」とよばれるスタッフがクリアしていく姿の一部始終を鑑賞できる」こと。

 遂行人の装着した「メガネ」は、フレーム部にWebカメラ・レンズ部にモニターを搭載している。

 この「メガネ」を通じて、依頼主と遂行人がつながることが出来る。

 そのことから、新しいコミュニケーション型ビジネスとして注目される一方で問題もあり、高い報酬を望む遂行人の過剰なサービスや、依頼主のモラル低下など社会問題の一つとなってきている。

 

 余命宣告を医者から告げられてから、僕はこの「メガネ」で過ごす時間に救いを求め始めた。 

 だれかの為に今日を生きる。

 しばらくそれを続けてみよう。

 僕が依頼を遂行することで、それが依頼主の日常に消化されていけば…。

 それを僕が今日を生きたことにつなげたい。

 

   それでは、つづきです ↓

 ー ー ー ー


僕をよく指名してくれるようになった依頼主が最初に依頼してくれた内容はいつまでも忘れられない。

「私を笑顔にさせてください」 という依頼だった。
毎回のことながら、「依頼開始」の文字が「メガネ」のレンズ部に搭載されたモニターに映ると、緊張感で体がしびれるような気がする。
ほんの数分前までどんな依頼を受けようかという自由な身から、自分で依頼を選択した途端に孤独な職務を与えられるというふり幅に、未だに慣れない。

そんな僕は、気休め程度にしかならないかもしれないけれど、依頼遂行が開始されると同時にいつも空を見上げて深呼吸してから臨むことにしている。

依頼遂行中に依頼主からのコメントが表示されることがある。
あらかじめ用意されている定型コメントを選択する場合、依頼主には追加費用はかからない。
でも、オリジナルのコメントを入力すると20文字あたり30円程度のお金が必要となる。

余談だが、依頼主にもいろいろな人がいて、依頼内容と関係のないことばかりコメントでつぶやいたり、中には愚痴や悪口を淡々と打ち込む人もいる。

「〇ね〇ね」

と人を傷つける言葉をモニターで見続けながら依頼を遂行するのも面倒なので、

「あと一年以内にはその依頼も遂行しますから」

とつぶやきながら設定画面を開いて「ミュート」にする。
まぁ、とにかくそんなコメント機能のおかげで、依頼主の情報をこちらからもなんとなくだが得ることもできる。
僕を指名してくれる彼女の事をより身近に感じられるようになったのは、後に彼女が自分のことをコメントで語り始めてからだが、初めての依頼の時はすごく無口だった。



 ー ー ー ー

 

依頼主(彼女)を笑顔にさせるために何が出来るかと思い、ふらふらと歩き回った。
公園をあるいて、そこで遊びまわる子供たちをみたり、川べりをあるいて小鳥をみたりと、僕のつまらない休日過ごし方をただ配信しているだけだと気付くと焦りの気持ちが沸いてきた。
モニターには当然「依頼遂行完了」の文字は出ない。
小山にある小さな神社へのぼろうと歩き出す。
神社では明日から祭りでも開かれるのだろうか。

 

三ッ谷電機 屋台横丁 MYT-800屋台を組む人が参道の脇にちらほらみられる。

 

太田屋製菓 おさんぽわたがし 1個×10袋わたがし喜多山製菓 焼とうもろこし おかき 130gやきもろこし、どろぶた:ジャンボフランク 270g入りパック(3本入り)ジャンボフランク…それらを「メガネ」にひとつずつ映していく。
おたまじゃくし釣り、ひよこ釣りなんてものもあった。
祭りははじまる前の空気から楽しいが、終盤に差し掛かると途端に寂しく感じる。
依頼主は今、どんな気持ちだろう。

長い階段をのぼり、街を見下ろす。
就職と同時に移り住んだ街。
いろいろな思い出が詰まっている。

「ある日、突然僕が死んでもこの景色は急には変わらないし、それでいいと思う」

あまりに依頼主が無反応な為、つい僕が思ったことを声に出してつぶやいてしまった。依頼主からのコメントはまだ一度もない。

「予約依頼時間」は120分に設定されていたが、もう残り時間は30分もない。

「依頼遂行完了」の文字も依然としてモニターに出ない。

神社の裏道をのぼると、そこから続く山道がずっと奥の方へとのびていた。
いろいろと彷徨うなかで諦めたようにして、山道の脇に座り込む。


 ー ー ー ー

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私のパソコンのモニターに再び空が映し出される。
遂行人が仰向けに寝転んだようだ。
綺麗な夕焼け空が木々の隙間からみえる。
綺麗だった。
姿は見えないが時折り小鳥たちの鳴き声がきこえる。
静かだった。

 

 「だめだ。依頼をクリアできそうにない。

 なにか、嫌なことでもあったのか?」

話しかけられたが、どういって伝えていいのかわからず苦しんだ。
虐められる毎日の苦しみから逃れる為には、この小さなコメント欄にどれだけの文字を繰り返し打ち込んでも追いつかないような気がした。
心配してくれた気持ちに応えられず、そんなことで涙があふれてきた。

「ごめんなさい、無理な依頼をして」

とコメント欄に打ち込んで 『Enterキー』を押そうとした瞬間、「うわっ」という遂行人のおどろく声が聞こえた。

モニターには予想だにしないものが映りこんだ。

大きなニワトリがいる。

 たしかに山の中に。
なんで?
先ほど彼の「メガネ」に映った「ヒヨコ釣りの屋台」を思い出す。
まさか。
一匹で生き抜いた?こんなに大きくなるまで?

 

「一人でも つよくなれ」

モニターに映るニワトリが喋った。

 

「ありがとう」と急いでコメント欄に打ち直すと、私は「依頼完了」と合わせて彼におメッセージを送った。

 ほどなくして「依頼時間終了」の文字が画面に表示された。




 ー ー ー ー


つづきます …

 

 今日の話に出てきた、山の中にニワトリがいたという…。

 実は私の体験談です…。

 近くの神社の裏に山道があって、そこを登っている途中に一度見かけたことがあります。

 すごく不思議な光景でした。

 

 この山には野良猫もいますから、どうやって生き抜いてきたのか謎です。

 もしくは…だれかのペットだったんでしょうか…。