無職の俺に降って湧いた話 第一話
無職の頃、日課としてほぼ毎日一時間以上の外歩きを繰り返した。
でもどんなに歩いても、今の自分が置かれた境遇に対しての不安や不満の想いを拭い去ることはできなかった。
「何の罰ゲームだよ。
早朝、ただ毎日歩くということを繰り返しているだけ。
すれ違うスーツ姿の男を直視できない。
生産性のない日々に、焦っている。
こうしている間にも時間は経過する。
履歴書に書く空白期間が、ただただ伸びていく。
目の前を過ぎて行く景色。
もしもそれが、少しでも明日の生活につながればなぁ」
ー ー ー ー
新卒で就職した会社を、半年と持たずに辞めてしまった。
新しい仕事を探してみるものの、なかなか思うような仕事がみつからない。
私のそんな近況を知った古くからの友人の勧めで、新しいアルバイトをはじめた。
「(株)君がいて、ぼくがいる」という名前の会社だが、一度も聞いたことのない企業だった。
友人曰く、「頼まれたものを代行して買ってきてあげるバイト、簡単だよ」と。
彼は、何を不安がってるの?どん底まで落ちて、失うものなどないですよね?と言いたげな表情で軽く言ってのけた。
メンタルが弱り切った今の私でも出来るのだろうかとかなり不安だったが、日々減っていく残り資金に焦りを感じた私は、バイトの説明会に参加することにした。
「買い物代行」と友人に聞かされていたから、内容の多くは老人や体の不自由な人を対象にしたサービスなのだろうと思った。きっと、近くのスーパーでおつかいをして届けるくらいのものだろうと。
実際、「まぁ、参考に…」と友人との別れ際に手渡されたパンフレットにもそんな風に書かれていた。
依頼内容「買い物代行 編」の項目に目を通すと、こんな一文で締めくくられていた。
「あなたが誰かにお買い物を頼んだ時、ただ届けられることを待つだけでは味気ないし温かみもないと感じませんか?わたしたちと一緒に、買い物をすることの楽しみ・喜び・興奮…それらを真心こめてお客様のもとへお届けしましょうよ!」
その通りだった。
何が?
仕事内容が、だ。
このアルバイトは、始業開始時間までに勤務先に行って「メガネ」を受け取るところから始まる。
その「メガネ」はフレーム部分にWebカメラ、そしてレンズにはモニター機能を搭載している。
「メガネ」をかけるとモニターに依頼内容が映し出されるので、基本的にはその依頼通りに行動することさえ間違えなければ問題はない。
依頼内容はいつも3つほど表示され、その………
ー ー ー ー
第二話につづきます…。