月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

深夜のコイントス


事のストレスなのか、30代独身女の悩みなのか。
夜、すぐに寝付けなくなってからは病院に通い始めたが、処方してもらった薬がどうも身体に合わないようで、毎日が疲労感の積み重ねで出来上がっているような気がした。
今日も布団へ横になると、重い頭を転がしながら、暗闇の中でスマートフォンの明かりをぼんやりと眺めていた。
すると偶然、妙なサイトにたどり着いた。

サイト名は「深夜のコイントス
それは100円から始められる「賭け事」ができるサイトだった。
このまま生涯を独身で終えるのかもと意識し始めてからは、自分の身なりを整える意識も化粧も薄っすらとしたものになり、無駄に浪費することがなくなっていた。
とはいえ、通帳に刻まれていく数字の伸びは希望を与えるようなものではなかったが。

「…なんだかガチャガチャが沢山、ゲームセンターみたい…」
サイト画面にはたくさんの1/12 フィギュアアクセサリーシリーズ カプセルトイ マシン プラモデル FA05 カプセルトイマシンが並んでいて、画面をスクロールする度に、パッケージデザイン、つまり賭け事の内容が切り替わっていく。
賭け事の内容はふざけた様な内容のものばかりで、サイトの運営に対してうさん臭くて、信ぴょう性に欠けるような印象を抱いた。

たとえば、
「深夜の交差点、これから画面に現れる人は横断歩道で信号を守るか守らないか」「深夜の公園、15分以内に3人が出入りするかどうか」「ガードレールにもたれて見つめ合うカップル、15分以内にキスするか、しないか」
賭け事の舞台は寝静まった街中のリアルタイムな一場面だった。
それも、どこからか設置されたカメラを通しての映像だった。
それぞれの賭け事には、締め切りまでの時間と配当倍率が表記されている。
怪しい怪しいと思いながらも、100円だけならと思い、1967年 6ペンス コイン 幸せな結婚のために仮想コインに換金してから一つのカプセルマシンを選んでみた。
賭け事の内容は「深夜の雨の中、画面のコンビニ店で傘を購入する者が10分以内に1人いるか、いないか」
賭けの開始まで、残り締め切り時間は1分だった。
「きっといないよ…」
そう呟きながら、指は「いる」を選択しているあたりがわたしなのだった。
結果は思ったよりも早く訪れた。
深夜のコンビニに1人のスーツ姿の男が走り込み、傘を手にすると他には何も買わずに店の外に出た。3分くらいのことだった。
配当は、とてもとても少ないものだったが、それでも何だかうれしかった。
それからというもの、夜な夜な小さな画面で賭け事をして過ごすのが日課となった。

・ ・ ・ ・

めてから何か月も経ったある日、
「そういえば、ここでの仮想コインは何と交換できるのだろう」
と、今更ながらに気になって、メニュー画面から調べてみる。
「コインの交換」というページには、何種類かの景品が用意されていた。
現金への交換もあるにはあるけど、これでがっちりと儲けることは現実的ではない換金率だった。
そんな中で、一つの景品内容が目にとまった。
「賭け事内容の提案」
10000コインで得られるその景品を眺めながら、一度画面から目を離し仰向けになり、そしてうつ伏せになってから、もう一度画面をのぞき込んだ。

「交換可能ですが手持ちのコインを使いますか?」
にYESと答えると、冗談交じりに思いついた賭け事の内容を打ち込んだ。

「このサイトで賭け事を楽しむ30代独身女性が一年後、彼氏がいるかどうか」

決定ボタンを押すと、急な眠気に襲われてきた。
久しぶりの感覚だった。
なんとなく、しばらくはこのサイトに顔を出さなくてもいいような気がした。




ー ー ー ー


中だけ開かれている秘密のサイト「深夜のコイントス
そこに賭けの対象期間が驚きの1年と表示されているものが登場すると、俺はすぐにコインをつぎ込んだ。現金への換金率が悪いとはいえ、大きな金額をかければそれなりの見返りは得られる。はじまりは完全な遊びだった。
「彼氏?深夜にこんなサイトに入り浸っているヤツにできるわけがない」

賭けが開始されてから、盗撮のような映像で、対象の女性を観察する日々が続いた。
画面の中で、気だるそうな女性は少しずつ変わっていった。
身なりも部屋の清潔感もそうだが、一人で過ごす時間の多くを運動と読書、そして料理に充てていた。
なんとなく、意味もなく深夜になるとその女性を眺める時間が増えた。
俺は、自分の中ではすでに賭け事に負けていることに気付いていた。

・ ・ ・ ・

んなある日、街中で偶然、その女性によく似た人が現れた。
というより、本人だった。

賭けの決まり事として、参加者がその賭けの内容に関わることは禁止されている。
大きな罰則で俺は何を失おうが構いはしないという思いが強かった。
俺はそこで人生の賭けに出た。

「あの、すみません。…賭けのサイトで気になり、いつの間にか追う存在になっていました…」

つづけて正直に、誠意を込めて自分の気持ちを伝えた。
女性は真剣な顔で言葉に耳を傾けてくれていた。
だが、話し終り、その女性が次に告げた言葉によって、今はそこらの記憶が曖昧で思い出せない。

「彼氏を欲しがっているという女性が、だれとでも付き合うと思ったら大間違いです」

告白すれば絶対に付き合えると、心の奥底にそういう気持ちがあったことを見透かされていたのだろう。
ショックのあまりにその場を足早に去ろうとしたが、ポケットに突っ込んだ手が震えて、中に入っていた小銭がその場にこぼれ落ちた。

いまでも、あの日のコインの鳴り響く音が耳に残っている。



ー ー ー ー

 

…という妄想話でした。

 

 

気づきなさい。気持ち悪い男だと。

気づきなさい。気持ち悪い男だと。