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月詠み 日々 細胞分裂

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

このお金は母がパートをしてスーパーの特売品を求めて走りまわった結果、うまれたお金だ

それを、渡された。

「同窓会の誘いがあったでしょ?今日じゃないの?」とテレビをみていた私に母が封筒を渡してきた。

中には現金二万円が入っていた。

 

母の狙いをどうとか考えたくはないが、私は現在世間で言うところの「引きこもり」と呼ばれる状況だ。

 

とはいっても、自室に閉じこもっているわけではない。

1Kのアパートで母親と一緒に暮らしている。

家の中は自由に歩き回るし、夜中には外に出る。

夜道を意味もなく探索してアパートに戻るのが日課だ。

半年前くらいにはじめて同窓会の誘いが私に来た。

高校を卒業してから10年経っていた。

 

ほぼ横一線に並んでいたはずのクラスメイト達。

10年という歳月をかけて各々の人生を見い出し、そして歩んできた。

その結果発表会が今日の夕方から予定されているのだ。

当日参加OKと書かれていた案内状。

母はいつの間にその文面に目を通していたのだろうか。

目を通すなり直ぐに破り捨てたのに、会場が高校時代の馴染みだった溜まり場ということもあり簡単に忘れられなかった。

 

母の目にどこか力がこもっていた。

「行ってきなさいよ」

その後に、何か変わるかもしれないわよ、というセリフが聞こえた。

 

 

日が暮れない間に外に出るのは本当に久しぶりだった。眼球が窄み目が痛い。

母に見送られ、家のドアを開けると夜中とは違い耳をおおいたくなるような騒々しさだった。

昔はそれが普通だったはずなのに。

外界の情報の多さに脳がチリチリするような気がする。

ただ車とすれ違うだけでも身体が強張るのを感じる。

自転車がそばを追い抜いて行こうものならオーバーに身をひるがえしてしまった。

信号でただ突っ立っているだけでキャッチの声をかけられる。驚きのあまりに拒否する声すら出ない。

人があふれる社会の日常とはこんなに危険なものだったのか。

怖い。恐ろしい。

 

…同窓会に参加しようといういう考えは更々ない。

それでも母の言葉に従う気になったのは、恥ずかしながらお金を持ち出せるからだ。

特別欲しいモノがあるという訳でもない。

コンビニのスイーツ特集がこのまえのテレビで放映されていたのを見てから、無性にそれが食べたかった。「昼間に外出が出来たご褒美」としてそれくらい食べても誰も文句は言うまい。

 

少しの高揚感で満たされながらお金を持ち出したものの、それが直ぐに家に帰りたいという気持ちでいっぱいだった。

それなのに、同窓会の会場前の一角まで来てしまったのはなぜだろうか。

少しだけ、その会場の表向きの雰囲気を目にすればそれでいいだろう。

「それでいいんだろ?ねぇ、母さん?」

 

昔の溜まり場だった飲食店は視線の先にはなく、ただの売り店舗になっていた。

 

自宅へ戻り、母に交通費を引いたお金を返す。

「もう帰ってきたの?…行かなかったの?」

そうやって聞いてきた母の様子から考えると、母に騙されたわけではなかったらしい。

「行ってきたけど、誰かのイタズラだったのかもしれない」

 

 

あの日から、夜中に歩き回っていた日課が昼間に変わった。

「アンタ、最近少しだけ変わったね」と母に言われた。

 

 

 

 

 

…という妄想の話でした。

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 明日もきっと残業です…。

 年賀状…書かないとなぁ…。