月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

『雨上がりのテロップ』


ー いじめに遭うのがホントに辛いので、計画的に死ぬことにした ー



トミーテック 情景コレコレクション ザ・人間022 学生 夏服

突然体に衝撃を感じて、倒れ込んだ。
誰もいないと思っていた廊下の影から、スカートを揺らしながら足早に三人が去っていった。
世の中では、いじめられている人は周りに助けを求めず、じっと我慢して独りで抱え込んでいると思われている節がある。
だけど、そんなことはない。
なにかしら助けを求めてアクションを起こしている。
でも、その発信に誰かが気付いたとしても、受信し続けてはくれない。
自分でも上手くコントロールできない周波数に、チューニングを合わせてくれる人などいないのだ。
そう考えると、擦りむいた膝の痛みもあきらめの気持ちで受け止められる気がした。


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鉄道コレクション 鉄コレ 京阪電車 大津線 80型 連結車 非冷房

特定のリズムで頭を微かに揺らしている。
電車の出入り口に寄りかかり、不規則な方向に揺られながら、そのスーツ姿の男性を時折り眺めていた。

男性は窓の外を流れる電柱と自分が重なった時に、うんうんと頭を上下に動かしている。
その度に、頬から顎にかけて涙が少しづつ滴り降下している。
思いつめたような表情で、異様に頭だけを前へと突き出していて、覗いたシャツの襟は黒く汚れている。
わたしの他にも乗客はいるけれど、誰も男性に関心を向けない。
そんな風に誰からも気にかけられない時間がわたしも欲しい。
どうせなら永遠でもいい。
淡々とガタンゴトンと、電車は決められたレールの上を進んでいく。
わたしは今日で自分の命が尽きる運命だったとしても、何も後悔することはないように思う。

身体を小さく突き動かしていた振動が止み、乗車口が開く。
どこにでもいけるし、何にでもなれるような気がしていた。
いじめられる前は。
学校に近づくにつれて、同じ制服を着た人間が沸いてくる。
身体が一層重くなり、呼吸が苦しくなる。
決まったようにして、何も考えないことに努める。


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建物コレクション 建コレ106-2 駅前商店A2


してはいけないと思いながらも、それをやめられないことに初めて出会ったのは、いじめにあうようになって半年ほど経った頃だった。
最寄りの駅から自宅までの途中に、寂れた商店街がある。
夕暮れ時、その建物と建物の間に一本の缶が転がっていた。
スプレー缶だった。
何気なく拾って、通学鞄の中にしのばせた。
それから誰も来なさそうな路地をみつけるとその通りに駆け込んだ。
先ほど隠し持ったスプレーを取り出し、おもむろに地面へ向かって人差し指を強くあてがうと、紺色の塗料が「シュー」という音と共に勢いよく噴出した。
長く開かれたことのない倉庫のシャッターの脇で、何を書くでもなく、線を引いたり地面に「〇」をいくつか描いた。
なぜか、小学生までよく一緒に過ごした友人のことを思い出した。中学で違う学校に通うことになり、それから疎遠になってしまった。
彼女は今、元気でいるだろうか。

「けん、けん、ぱっ」

その友達のおばあちゃんが教えてくれた遊びを、小さい頃一緒にして遊んだ。
自分の娘のことをたいそうお気に入りだった、そのおばあちゃんの口癖が未だに忘れられない。

「あたしの孫娘、本当にかわいいでしょ?」

そういえば、そのおばあちゃんはいつの間にか姿を見せなくなった。


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スプレーでの落書きは止められなくなっていた。
シャッターに吹き付けたり、看板を塗りつぶしたり、カーブミラーに向かってまぶしてみたりと、意味のない独り遊びを繰り返した。
拾いもののスプレーはすぐに空になり、ホビーショップでラッカー塗料のスプレーを何本も買い足し、それが空になるとまた新しいものを求めた。
毎回、色は違う色を選んでみた。
やがて、目ぼしい色を一通りめぐった頃に、その魔法のスプレーに出会った。

それまで、漠然とした計画だったものに、はっきりとした手段が明記された瞬間だった。

そうだ。わたしをいじめた人たちに、少しばかり復讐してから死ぬことにしよう。
わたしの居なくなった世界で、あとは勝手に生きればいい。


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1/12 学園小物シリーズ GK01 学校の校門セット レンガタイプ


『雨がよく降る梅雨時の6月。
学校の校門を出て直ぐのアスファルトに初めの第一歩が現れた。

「〇」

マンホールくらいの大きさの丸が雨の中に浮かび上がっている。
防水スプレーは無色透明だった』

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雨の中、浮かび上がり、増幅する「〇」が校内で噂になっても、わたしへのいじめは相変わらずだった。
「〇」は雨が降るたびに少しずつ増えて移動した。
薄々と何かに勘付いた生徒の誰かが、継続してカメラで撮っていたようで、その写真が「つぶやき」という投稿サイトに載せられ学校の外へ拡散された。
その「〇」は校門からの一本道をずっとまっすぐに移動していたが、車の行き来が多くなる通りに出ると、左右に分かれて更に分裂し始めた。

職員会議の議題にあがるような騒ぎになっても、わたしへのいじめは終わらなかった。
足を引っかけられたり、ゴミを投げつけられたり、物を隠されたり。それが止んだかと思ったら、次は言葉をかけられることもなく、誰からも無視されている。
そんな陰湿ないじめが繰り返された。
でも、あの「〇」がいじめの主犯格の家にまで到達したときにわたしは報われるような気がして、それだけを願って「〇」の行く末を見守っていた。

わたしが「〇」を地面に描いたのは、学校の前から大通りまでの一本道。
おこづかいが無くなり、結局防水スプレーは2本分しか買えなかった。
2本目が空になる前に、「〇」の横に一文添えた。

「いじめっ子の家」

そこからは勝手に「〇」が伸びていった。
野に放たれたそれは、親の願いを受け止め、自由に広がっていった。
誰かがわたしの発信をチューニングして受け止めてくれたのだと感じると、少しだけ心が癒された気がした。



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靴箱を整頓していると、懐かしいものが出てきた。
一本のスプレー缶だ。
中身は入っていない。
そう。あの防水スプレーだ。
おとなしかったわたしが、思えばよくあんなことをしたものだと思う。
でも、それでわたしは今があるのだと思う。

何年も前、学生の頃のことだ。
わたしはいじめにあっていて、死ぬことを考えていた。
でもその前に報復として、いじめっ子の家を世間に知らしめようと、防水スプレーを使った復讐を企てた。
雨の日に浮かび上がる「〇」がいじめっ子の在処をさらすものだとして、投稿サイトで話題となり大きく騒がれた。
でも「〇」は、わたしが全てを描いたのではない。
親の元を離れて独り歩きを始めた「〇」の軌跡が、もう少しでわたしをいじめる人達の家に達するという頃、学校が夏休みに入った。
「〇」は行き先を見失ったかのようにして、歩みを緩め、そして消えてしまった。
わたしは当然がっかりした。
でも、どこかで安心していたのを覚えている。
夏休みがあけても、変わらずいじめが続くようなら学校に通うことをやめようと思っていたが、なぜかわたしへのいじめはなくなった。

当時の自分へかける言葉があるとしたら何を伝えただろう。
こうして今は社会に出て、「大人」の世界に身を寄せても、他人を虐げる心は世の中に溢れていて、残念ながらなくならない。わたしの中にさえそれはある。
でも、そんなことはあの頃から解っていたことだ。

空のスプレーに穴をあけて、潰す。
もう要らないものだ。
これから先、わたし自身、わたしが大切に思う人、それが何者かに傷つけられることがあれば、また別の方法で戦えばいい。
あの時のように、恐れずに、最初の第一歩を踏み出す。
大丈夫。
くじけそうになっても、きっと誰かがみていてくれるから。



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ー 皆があの騒動を忘れた頃、道端に落書きをみつけた
 少し前まで降っていた雨水を弾いて、それは浮かび上がっていた
 少し手を加えられたその円は、にっこりとわたしに微笑んでくれていた ー

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ー ー ー ー



…妄想話でした。 



Sia - Alive