月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

「雨と日照りの対岸」

雨はもちろん、風も時折り激しく吹き荒む。
身に着けていた雨着は家を出てすぐに水浸しになった。
この村と崖を挟んだ対岸の隣村が見渡せる高台に今日も向かう。
軋む階段を一段一段、踏みしめながら上まであがると、狭苦しく殺風景な板の間が塞ぎ切れない雨風に晒され、自然と中央の暖炉に身を寄せるしかなかった。
はぁはぁ、と白い息を吐きながら、眠気眼な弱弱しい陽炎火に薪を焼べる。
雨が降り続けて、十二日目の朝を迎えたのだった。


かじかんだ両手を擦り合わせる。
しかし、幾度重ねようと、胸打つ不穏な鼓動をなだめることはできない。
降り続く連日の雨、雨雲に覆われ狭まった空。
霞んだあの山脈の先を見据えるが、以前として灰色がかっている。
残された期限は一日しかない。
どうか雨よ、どうか降り止んではくれないか。
 
崖の上にかかっている跳ね橋は十日前まではぎしぎしと揺れていたのがここからでも見てとれたが、もうその跳ね橋は垂直に天に向かって押し立ってしまっている。
その向こう側の村にも似たような高台がある。
馴染みの監視役がそこに居るのが遠目に見てとれた。
彼女はどんな思いだろうか。
跳ね橋が村と村を引き裂いてからは会話を交わせていない。
手紙を弓先にでも結んで放ってみようかと思ったが、文武がからきし駄目なわたしだ。向こう岸まで飛ばせる技量も、彼女にかけてやる言葉も持ち合わせてはいない。


この両村は昔、対立していた。
その何十年も前の、先人たちの構想が未だに村民を蝕んでいる。
長きに渡って停戦していたが、もうその終わりが迫っている。

 「日照りが二十日間続けば戦を取りやめ、雨が十三日間降り続いたならば戦を再開する」
 

くだらない。
向こう岸の高台から彼女が顔を覗かせる。
その手に持っていた火縄銃が、自然とこちらを向いていた。
くだらない。
彼女に向かって両腕を大きく広げてみせる。
ここだ。
彼女が体を僅かに後ろに引いたあと、銃口を上に傾けた。
狙い撃った素振りのつもりだろう。
わたしは大袈裟に床に倒れてみせた。
含み笑いでも浮かべてくれただろうか。
くだらない。
私が倒れた衝撃なんぞで、と思うが天井からぽたぽたと新たに雨漏りがはじまった。
天のかみさまよ。
わたしはこんなことを、この先の世も続けていきたいのだ。

風が弱まった。
まだ雨は止まない。





 ー ー ー ー

…妄想話でした。