月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

無職の俺に降って湧いた話 最終話(全13話)

これまでのあらすじ (1話~12話)

「(株)君がいて、ぼくがいる」という企業名の会社が業績を伸ばし続けている。

 この会社の提供サービスの特徴は「依頼主(消費者)の頼みごとを「ミッション遂行人」とよばれるスタッフがクリアしていく姿の一部始終を鑑賞できる」こと。

 遂行人の装着した「メガネ」は、フレーム部にWebカメラ・レンズ部にモニターを搭載している。

 この「メガネ」を通じて、依頼主と遂行人がつながることが出来る。

 新しいコミュニケーション型ビジネスとして注目される一方で問題も起きている。

 高い報酬を望む遂行人の過剰なサービスや、依頼主のモラル低下など社会問題の一つとなってきている。

 

 いつの間にか恋焦がれていた「メガネ」の彼は別人だった。

 何とかその真相が知りたくて、そしてやっぱり彼に逢いたくて。

 わたしはその彼が持っていたはずの「メガネ」を持つ人物を探し当てた。

Still Love Her

Still Love Her

 

  それでは、つづきです ↓

 ー ー ー ー

初めて目にした、わたしの探していた「メガネ」の遂行人。
この人は、わたしが好きになった人ではない。
けれど、身に着けている「メガネ」は彼が身につけていたものだ。
対峙した時、「メガネ」の向こう側に彼がいるような気がして体があつくなった。
間違いなく、この「メガネ」が彼と私をつないでいたのだ。

今、この胸ポケットにぶら下がっている「メガネ」は先程のコンビニで働くスキンヘッドの店員から紹介してもらったものだ。
あの違和感を感じた依頼の日から、何度も動画を繰り返し見ては「メガネ」の場所を探した。
動画に映っていたのは、ある程度の都市なら連なっているだろうチェーン店やブランド店ばかりだった。
なんとか絞り込んだ場所の一つが隣の県だったので、そこを休日になる度に歩き回った。

そんな何度目かに訪れた休日のある日、駅前のコンビニで飲み物を手にレジに向かった時のことだ。
唐突に、まるで映画か何かの台詞のようなことを話し出す、ひとりの店員と出会った。

「初めてきみを見た時に、こんなことってあるんだと思った。きみは私を知らないかもしれないけど、私は知っている。

 この一年程は、きみの探しているであろう「メガネ」の人物を見張る為、そしていつか出会うかもしれないきみのために私はこの町で生活を始めた」

わたしが次の言葉を待つと、メガネをかけたスキンヘッドの男は少しさみしそうな顔をして言った。

「きみの探している彼とは遂行人仲間だった。

 率直に言うと彼はもうこの世にはいない。

 でも、ある依頼を残した。

 そして、その依頼は実は今も続いているんだ」


彼が死んだと伝えられたことにたいして、私が探していた彼は本当に実在していた人物だったんだなぁという、どこか現実味のない思いが浮かんで、でもすんなりと落ちてこないままだった。

「彼の願い通りに、彼の遺産、有り金の全てをつぎ込んで追加で延長依頼し続けていた。きみが彼の依頼を目にする時までがんばろうと。

 でも彼の「メガネ」は違う人に渡ってから想像以上にランクがあがってしまってね。彼の依頼を延長し続けるにはお金が足りなくなった。今はその依頼を絶やさない為だけに私は「メガネ」で過ごしてきたんだ」

 

 わたしは、今も続いているという彼の残した依頼がどんなものなのか「メガネ」の店員に聞いた。

 店員はこう言った。

「彼の「メガネ」を引き継いでいる人がこの町に住んでいる。このコンビニにもよく来る常連だ。その人の「メガネ」を手にしたらきっとわかるよ」


 ー ー ー ー


遂行人は「依頼」の時の動画を振り返ってみることは出来ない。
だから、依頼主の傾向を探るには、高額なアプリを「メガネ」にインストールしているほうがずっと効率が良くなるようにしくまれている。

 「このメガネ、なぜか前任者のデータが消去されることなく引き継がれているらしい。でも、それをこっちからは確認できない。
 君だろ?指名で依頼をしてきたのは…」

 女の子はうなずくと、こちらの話の続きを待った。

「指名された記憶がない依頼人から、しかも一度や二度ではない回数がアプリで確認できた。自分の知らない過去がこのメガネにあることを知って、それから怖くなった」

場所を変えようと言わんばかりに女の子がゆっくり歩きだしたので、後ろを歩く。

「結局は「メガネ」を紹介してくれた張本人をもう一度訪ねた。でも「メガネ」を紹介してくれたのは確かに私の友人だったが、君の求めている人物ではなかった」

前を歩く制服姿の女の子に後ろから声をかける自分が、なんだがたまらなく決まりが悪く思えた。
居心地が悪い状況を一転させるが如く、話を変える。

「君は知っているんだろ?
 俺のIDナンバーが本当は1104-2だってことを」

制服の女の子はこちらを振り返ると、先程のスキンヘッドのコンビニ店員が教えてくれたと言った。

「ゴースト、と業界用語で言われているらしいよ」

メガネの女の子はその「ゴースト」についてゆっくりと説明してくれた。

「依頼遂行中に、その依頼を遂行する人物が何らかの理由で交代した場合、代理ということで一時的にIDナンバーに継続の数字が並ぶ。あなたは彼の代理人ということになる」

そう告げられた。
俺がこの「メガネ」について知っていることを正直に話そうというと、メガネの女の子は小さな公園に入り、そこのベンチに座った。
俺は突っ立ったまま、話し始めた。

俺の友人は「メガネ」で依頼を受けたことは一度もないと言っていた。
友人は信じられないかもしれないが、と前置きをしたが、続いて出た言葉は本当に信じがたいものだった。

父親が言うには、海で拾ったものらしい。
 瓶に入っていたそうだ」

友人と再会したのは「メガネ」を紹介してもらって以来だった。
俺と一緒にいるのが嫌なのか、手っ取り早く話を終えたいという雰囲気を醸し出しながら友人は語り出した。

「久しぶりに田舎へ帰った時、父親にこれは何だと聞かれ、その時に目にしたのがこの「メガネ」だった」

漁港で働く父親が、漁船から降りてきた漁師から、

「よくわからないからやるよ。要らないなら交番にでも届けてくれ」

と言われたらしい。
ただの「メガネ」じゃないことはすぐにわかったそうだ。

「広口の瓶に入っていた。綺麗な和紙に梱包されて。
 そして、メガネにはUSBでバッテリーがつないであった」 

友人は直ぐにネットで調べて、この「メガネ」が紹介制アルバイトの備品だと知ったらしい。
不意になぜか、女の子にこの「メガネ」が自分の元に渡る経緯を語ると同時に、違う部分で最後に友人に会った場面を思い出していた。

「上手くいけばすごく儲かると聞く。でも、その反面でトラブルもあるという噂も耳にしていた。既に家庭を持っている今、冷静に判断して保身を優先した」

と友人は言った。
俺にそんな「メガネ」を渡したのはなぜかと問うと、友人はしばらくの沈黙の後にこう言った。

「身近の人物がどう変わっていくか、悪いがそれが見たかった」

その顔は、急にどこか知らない人の顔に感じた。



 ー ー ー ー

 

話し終えた目の前の「メガネ」の男性は、どこかスッキリしたような雰囲気だった。
その感じは先ほど「メガネ」を手渡してもらった時のコンビニ店員と、少しだけ似ていた。
彼が、そのコンビニ店員にお願いしたことがあるそうだ。

「もしも病気がひどくなって依頼を続けられそうにないと判断したら、その時は「メガネ」をきみに預けようと思う。
「メガネ」は瓶に入れて、川から海へと流れ着くようにしてほしい。
 きっとあの子は喜んでくれるから」

コンビニの店員に託した彼の願いは、しっかり海まで届いたのだ。


私は目の前の男性に一つの提案をした。
お互いに「メガネ」を紹介し合おうと。
男性は「メガネ」でなり上がることに生きがいを感じているのは、遂行レベルの上がり具合からよくわかる。このまま仕事を手放したくはないだろう。
だけど、一方で「メガネ」が自分のモノではない。
代理人という肩書がきっと邪魔だと感じていると思った。
男性はその取引について少しだけ考えると、一つだけ確認したいと言った。
交換することで実はこの仕事を辞めることになったりしないのだろうかと。

「新しい人に紹介するわけではないのなら可能だそうよ」

あのコンビニ店員が教えてくれたんだと伝える。

「あの店員は本当になんでも知ってるな。このメガネの本当の遂行人とは深い仲だったんだろうな」

とつぶやくと、寂しそうな顔で少し笑った。



 ー ー ー ー



今、わたしはあの彼の付けていた「メガネ」を制服の胸ポケットに引っ掛けている。
パソコンモニターには、わたしの視界にあるものとまったく同じものが映し出されている。

「わたしがいつか見るかも知れない」

その為だけに作られたアカウント。
コンビニの店員に教えてもらったIDとパスワードを入力する。
依頼内容は「笑顔にしてあげたい」
依頼経過時間は一年を超えている。

そして、今もその経過時間は刻まれている。
彼とはもう会うことはできない。
この経過する時間をとめる事は、完全に彼を失う瞬間であるかのように思えた。

あの時と同じコメントをゆっくりと打ち込む。

「ありがとう」

と入力したあと、しずかに「依頼完了」を押した。




 ー ー ー ー




相変わらず、学校生活は苦しいけれど、この動画をみると嫌なことも忘れられた。
彼が病気だったこと、一人で不安や恐怖とたたかっていたこと。
月日が経つにつれて動きが鈍くなったり、息遣いが苦しそうな場面も増えた。
それでも、彼の「メガネ」が映したものは、わたしにとってはいつもおだやかで心が安らぐものが多かった。

 

 

この依頼の最初の場面は彼の部屋からはじまる。

あの花がある。

ガーベラだ。

ガーベラの花言葉は「希望」

彼がわたしに教えてくれた花だ。 

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 ー ー ー ー


 おわりです。

 

コイスルオトメ

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うちゅうひこうしのうた

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