日々人 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

無職の俺に降って湧いた話 第十二話

 

これまでのあらすじ (1話~11話)

「(株)君がいて、ぼくがいる」という企業名の会社が業績を伸ばし続けている。

 この会社の提供サービスの特徴は「依頼主(消費者)の頼みごとを「ミッション遂行人」とよばれるスタッフがクリアしていく姿の一部始終を鑑賞できる」こと。

 遂行人の装着した「メガネ」は、フレーム部にWebカメラ・レンズ部にモニターを搭載している。

 この「メガネ」を通じて、依頼主と遂行人がつながることが出来る。

 そのことから、新しいコミュニケーション型ビジネスとして注目される一方で問題もあり、高い報酬を望む遂行人の過剰なサービスや、依頼主のモラル低下など社会問題の一つとなってきている。

 

 

「依頼した「メガネ」はあの時の彼ではなく、まったくの別人だった。

そのことについて確認したいけど、どうすればいいのだろう」

 

「依頼遂行を失敗してから、胸騒ぎがする。

自分にはめずらしく指名依頼をしてきた依頼主のことが頭から離れない…」

 

 

   それでは、つづきです ↓


 ー ー ー ー

久しぶりに再会できたはずの彼は、きっと別人だった。
わたしの知っている本物の彼の事が心配になるが、どうしたらいいのかわからない。
過去に依頼したときの動画と、違和感の残る今回のものとを見比べてみる。

彼の動画は自然の風景が多かったが、なぜか今日の動画はお店が立ち並ぶ賑やかな都心だった。

自分が依頼した動画はなんども振り返ってみることができるが、違う依頼主の動画をみるには、別途お金が必要となってくる。金額は依頼した内容によって、また依頼遂行レベルも関係してくる。
彼のIDを引き継ぐもののレベルは上級ランクなので気軽に手を出せる金額ではない。
ID検索で遂行履歴をとりあえずはみてみる。
短時間で簡単な依頼の動画を閲覧しようとしても、おこづかいで計算するとひと月分以上もかかる。
モニターに映った「メガネ」の遂行履歴の日付をみると、彼が最後に水族館の映像を見せてくれた後、しばらくの空きがあって、そこから急に依頼遂行数がのびていた。

この空白期間のところで、きっと「メガネ」は彼からだれか違う人の手にわたったんだ、そう思った。

 

 ー ー ー ー


いつものコンビニで夕飯を買う。
何の躊躇もせずに棚に並ぶ商品をカゴに放り込めるようになるなんて、一年前の自分からは想像できない。
値段は気にせず欲しいものを一連の動作でリズミカルにぽんぽんと放り込んでいる。
そして、最後におかしのコーナーのところで、いつものチョコを買う。

初めて依頼を受けた時に買ってやったチロルチョコ チロルチョコバラエティパックチョコだ。

「初心忘れるべからず」というわけではないが、なぜかあれから買い続けている。

そして、その初めて依頼を遂行したコンビニのレジへと向かう。

初めは誰かわからなかった。
制服を着た女の子の話ではない。それはこの後だ。
あの、馴染みの「メガネ」をかけていたコンビニ店員がメガネをしていなかった。

「あなたに会いたい人がいるみたいですよ」

そう、ひと言告げてから淡々とレジで会計処理する目の前に立つ店員。
どこかすっきりとしたその顔は、メガネがないからという理由だけではなさそうだ。
おしゃべりだった彼の面影はそこにはなく、どこか一仕事終えたような安堵の表情が印象的だった。

「ありがとうございました。また、お越しくださいませ」

 

自動ドアがしまる音が聞こえる。
目の前に、制服を着た女の子が突っ立っているので、自分もコンビニを出たところで立ち止まるしかなかった。

制服の女の子は言った。

KONOV ジュエリー ファッション アクセサリー メンズ ネックレス,チョーカー, チェーン(68cm) と ペンダント トップ ヘッド コンビ セット, 名前 ドッグタグ, 合金, カラー:シルバー(銀);[ギフトバッグを提供]「IDナンバー 1104…ですよね?」

制服の胸ポケットにはメガネがたたまれ引っかけられている。
同業者ならそのフレームを目にすればすぐにわかる。

「メガネ」だ。

得体のしれない恐怖が目の前に立っている。
コンビニの袋に入った例のチョコに目に落とす。
なんだかんだで性根は相変わらずの小心者な自分。
どんなに荒稼ぎして大金を持とうと変わっていない。変われない。
「メガネ」でも、他人の評価が無性に気になる。
自分に自信がもてていないからだ。

いったい、この「メガネ」の女の子は、自分にどんな不安をもってきたのだろうか。

 


 ー ー ー ー



つづきます…