月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

無職の俺に降って湧いた話 第十話

 

これまでのあらすじ (1話~9話)

「(株)君がいて、ぼくがいる」という怪しい企業名の会社が売上を伸ばしている。

 この会社の提供サービスの特徴は「依頼主(消費者)の頼みごとを「ミッション遂行人」とよばれるスタッフがクリアしていく姿の一部始終を鑑賞できる」こと。

 遂行人の装着した「メガネ」は、フレーム部にWebカメラ・レンズ部にモニターを搭載している。

 その「メガネ」を通じて、依頼主と遂行人がつながる。

 依頼主の依頼内容が困難なものほどサービスは高額になり、遂行人の得られる報酬も多くなる。

 このアルバイト、TVやネットで話題になっているが、実は真相が謎な部分が多い。

 遂行人になるには誰かから紹介してもらわなければならない。

 そして、紹介した者は今後一切、「(株)君がいて、ぼくがいる」との関わりをもってはいけない。

 

  無職から「メガネ」のアルバイトに出会ったことで、大きく稼いでなり上がろうとする男がいる。

 一方、「メガネ」の彼に心を癒され、恋心を抱いていた女の子がいる。

 久しぶりに指名依頼した相手はなぜか彼ではなく、この拝金主義の男だった。

 あの彼はどこにいってしまったのだろうか。

 

   それでは、つづきです ↓

 ー ー ー ー


30歳も過ぎると、「死」に触れる機会が少しずつ増えていき、それまでよりも少しだけ身近に感じ始めていた。
同級生の親の訃報を耳にした時、もしも僕の両親が生きていたら自分の親に対してどんな思いがわいてくるのだろう、そんなことを思った。
「死」は身近にあるのだろうけれど、いつか僕も死ぬことが決まっているだけであって

「明日君は亡くなります」

なんてことを突然、預言者に言われたとしても、

「はい、そうですね。僕もうすうす感じていましたから…」

なんてことはとても言えない。
確かにこんなに近くにあるはずなのに、毎日を生きるなかでもっとも準備不足な項目が「死ぬこと」であったような気がした。

 

医者に言われたのだ。

「余命は一年です」

会社の健康診断も捨てたものじゃなかったわけだ。
再検査に行くようにと通知を受けていたが、何かと理由を見つけては無視し続けた。
そんな「死ぬこと」の準備不足にたいして、「死」が向き合う機会をくれたということになる。

当時付きあっていた彼女にそのことを伝えようと決心すると、彼女からも話があると言われたので先攻をゆずった。
別れ話だった。
僕には後攻があたえられない、試合形式だった。
両選手が向き合って別れの挨拶をした際、なぜかアルバイトを紹介された。

「私にはもう必要ないから」

と言うと、身に着けていた「メガネ」を外して私に手渡した。
そのメガネのレンズ部にはなぜかモニターが搭載されていて、そこには「依頼クリア」と表示されていた。

今となっては、その時の依頼内容が何だったのか知ることはできないが、もしかすると「偽装恋愛の始まりと終わりがみたい」などという依頼だったりしても、おかしな話ではない。そんな依頼を予約するような人間がこの世の中にいることは、このアルバイトをしていると身に染みて理解できるので、だいたいそんなところだと思う。
でも、仮に本当にそうだったとして、3年間にも及ぶ偽装恋愛を見送った感想のひとつくらいは誰かに聞きたい気もするが。


 ー ー ー ー

急に人生の雲行きが怪しくなったとしても、その終わりが見えるようならば、思い切った行動がとれるようになるのかも知れない、などと思ったがそうでもなかった。
会社をやめると、ひとりの時間が多くなった。
体の不調を感じることはあるが、まだ「いよいよ」という段階でもなく。
そんなとき、あの「メガネ」の存在を思い出す。
元彼女から餞別としてもらったものだ。
インターネットで「メガネ」のことについて調べると、「メガネ」に寄せられる依頼のまとめサイトというものに行き着いた。
そこに飛んでみたら、想像もしなかった世界が現実社会で広がっていることを知る。
お金を払って依頼をする人間と、お金を受け取りそれを遂行する人間。
何気ない日常風景に溶け込んでいるような働きが、実は誰かの依頼だったりする。
もしかしたら、普段何気なく擦れ違う人たちの中に遂行人が交じっていることもあるんじゃないか?
遂行レベルをあげるために躍起になって駆け回っているのではないだろうか?
などと思うと、知らない世界を少しのぞき見したようで、おかしく思えた。

ひとりの時間が増え、気付けば、少しずつ喜びや楽しさを見い出すことと一緒に、悲壮感や絶望感がやってきていた。
それから逃れるようにまた嬉しいことや美しいことを探すのだが、自分の先のことが頭をよぎると、すぐさま苦しみがやってくる。

僕は押しつぶされそうになっていった。
笑わないでほしい。
僕が「メガネ」の遂行人になることを決心した理由は、誰かに縋ってでも救われたかったからだ。

 

やがて、僕を指名してくれる依頼人と出会った。
その人のはじめての依頼は「わたしを笑顔にさせてください」だった。




 ー ー ー ー



つづきます… 

 

 

  明日の今頃は仕事も終わってリラックスできているはず…。

 嫁に仕事の愚痴を言いたくないのに、口を開くとどうしても仕事の愚痴になってしまう。

 どうにかしてくれ。

 嫁に嫌われてしまうではないか。

 明日は給料日。
 そう、私が2000円をいただく日です…。