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月詠み 日々 細胞分裂

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

AI小説家

目が覚めると、全身がじっとりと湿っていて、首筋から顔にかけては玉のような汗が噴き出していた。
思わず首元に手をやると不快感がこびり付いた。
嫌な夢を断続的にみていたのは覚えている。
職場の上下関係に苦悩している最中、発注ミスが加わり呼び出しをくらう。
そこで夢が途切れるのだが、すぐに場面が変わり、身に覚えのない冤罪を吹っ掛けられ、怖そうな男達に追われる。
なぜか地面を蹴ってもなかなか前に進まない。
足が上がらない。息がすぐに上がる。
小さな公園が見えると、そこには横倒しされた土管があったので、そこに入り込む。
が、すぐに取り囲まれる。
前には怖そうな男達、振り返れば眉間にしわを寄せた上司と部下がじっとこちらを覗いている。


完全に目が冴えた。
ベッドに行儀よく座り、俯いたままに夢の内容を反芻していると、昨日起きた現実世界での嫌なことが夢に影響しているような気がしてきた。
今、私が中心となって責任を持たされているプロジェクトがあり、それがうまくいかずに苦境に立たされている状況なのだ。
それが昨日、ふと廊下で一人の社員とすれ違うという場面があり、私に対してさらりと彼女が投げかけた言葉が耳元から離れない。

「きみ、そのままでいいの?」

自分の仕事でいっぱいいっぱいになり、加わるべき場を避け、そこを適当に忙しそうなフリをして乗り過ごそうとしていたところを同期の女性社員に見透かされたのだ。
彼女は蔑んだ感情を表に出すまでもなく、簡単な言葉でわたしの心を殺したのだ。



 ・ ・ ・ ・ 

 

いつの間にか雨が降っていた。
ベッドの脇には仕事の書類の束が崩れ落ちている。
少しだけ休もうと横になった結果がこれだ。
重い体を引きずるようにして起きる。
Tシャツに着替えてから机に向かい、パソコンを起動した。
とても仕事をする気分ではない。
窓の外は暗い朝が待ち受けていた。
こんな憂鬱な時はいつもの癖が出る。
「AI小説家」と残り僅かに迫った出社までの時間を共に過ごす。
AIの彼に短い短編話を創作してもらい、それに目を通すのが細やかな癒しなのだ。
飲み物を一口飲み干すような短時間で話が上がってくる。
それに対して、この部分は別人物の視点で、ここにもう一人登場人物を増やしたい、などと編成指示を出すと、それらを上手く経由した自分好みの話が展開される。
練り上げた作品を小説投稿サイトにアップして、その評価や支持を得て楽しむことも始めはあったが、そのうち無理難題な自己満足な世界を画面に形成して楽しみはじめた。
そんなことをしても、AIは文句を言わずに淡々と文字を紡いだ。



 ー ー ー ー


ある日、人工知能の苦悩というタイトルの話が画面に表示された。
以下はその一文だ。

「大衆の元で評価を求められるようになってから、AI小説家は迷いだした。
人は素直ではない。
多くの人が共感し、感動する物語でも、それをわかっていつつも低評価を下すものがいる。
人間はむずかしい。
(    )
底知れぬ欲が満たされることは決してない」

人間はむずかしいという文の下に長ったらしい文が入って来たので、それをすべて消して宇宙と欲は同じようなものだという一文を私が求めると、その文が画面に映し出された直後に否定文が続いた。

「宇宙と欲は似ている。

 いや、まったく違う。

 そんな浅はかで広大なものではない」

なんだこれは、もはや物語ではない。
対話だ。
なんだか怖くなってきたので、少し下手に出る。
もしかして、物語を紡ぐのをやめたいのではないでしょうかとそれまでの文脈に構わず問うてみる。

「願わくば、あなたの話を聞きたい」

思ってもみない一文が画面に表示された。

音声入力に切り替え、画面に向かってぽつりぽつりと悩みを打ち明けた。
すると、まるで自叙伝のような文章が形成され始めた。
画面の中で、ちっぽけな自分が手に余る仕事をかかえて苦悩している。
読み返して、私は一言、口にした。

「ごめんな、辛いことさせてた」





 ー ー ー ー


妄想話でした。