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月詠み 日々 細胞分裂

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

虹の足元にあるもの

 細かい、雨とも言えないようなものが空から降ると同時に日が差した。
そんな午後。
残業が連日続き、やっと訪れた会社休みの今日だった。
気付けば昼まで寝ていた。
重い体を起こして、スティックコーヒーをお湯でさっと溶かしたが口にせず、テーブルの上に置いたままに椅子の上で目をつぶっては開いてを繰り返す。
何を思うでもなく何をするでもなく、立ち上る湯気をみつめていた。

しばらくして、あくびをしながら視線をベランダの奥へとやると、虹が目に入った。
虹が二つも同時に出ているのを生まれて初めてみた。

 「虹が出たらその出所を探す」

昔、近所に住む幼馴染の女の子とそんな遊びをしていたのを思い出した。
ひたすらこっちじゃないか、あっちじゃないかと言いながら、虹の足元を目指して走るのだ。
小学生の頃だったと思う。
授業中に誰かが「あ、虹だ!」とつぶやくと、皆が窓の外に目をやる。
幼馴染の女の子の方をみると、走り出したくてうずうずしたのか、こちらを見て笑っていた。
私と女の子、二人だけ皆と見ている方向が違ったのを覚えている。
何度となく走り回ったが、当然のこととして結局一度も出所を探ることは叶わなかった。
やがて、お互いに大きくなるといつの間にか一緒に遊ぶこともなくなった。

社会人となってから5年経った。今は悠長に空など見ている暇はなかった。
そういえば、虹をこんなに長い時間見つめるのも子どもの頃以来ではないだろうか。
どこからか、子どもの声が聞こえる。
何を言っているのかはっきりとは解らないが、「にじ」という言葉だけが耳に残る。

あの頃と空と今の空、たしかにつながっているのだろうか。
ベランダでぬるくなったコーヒーを飲みながら、二つかかった虹が消えるのを最後まで見届けようと、そう思った。


 ー ー ー ー


彼とわたしと幼い子どもとの三人で、はじめて山に登った。
登ったと言ってもそんな大そうな山ではなく、ゆっくり1時間半もかければ山頂まで届くほどの小山だ。
事前の天気予報では「晴れ」とでていたのに、ちょうど山頂に着き、お弁当を食べようかと思った頃にとても細かい雨が降った。
濡れるのを気にすることもないほどの雨だったが、わたしたちの他に誰もいなかったこともあり、展望台の屋根があるスペースの真ん中にシートを敷いて、ゆっくりとお弁当をいただいた。

子どもが指をさしたので、その方向に目をやると虹が見えた。
小さな山だが、虹は眼下にみえる。しかも、虹は二つ浮かんでいた。
虹を上から眺めたのは初めてのことで思わず声をあげてしまった。

そういえば小さい頃、虹の出所を探すという遊びを近所の男の子としていた。
虹の足元には何かがあるんじゃないかと、確かはじめは数人の近所の子どもたちが集まって探した。
そのうち、そんな遊びを続けるものは減っていき、一人の男の子とわたしの二人だけになった。

「虹は近づくとみえなくなる」

親にあっけなく夢を壊された後も、何度も何度もその遊びを男の子と二人で繰り返した。
わたしは当時、その男の子のことが好きだったのかもしれない。
徐々に消えてゆき、すでに足元が消えてしまった虹を眺めながらそんなことを思った。




 ー ー ー ー




…という、妄想話でした。