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( >д<);'.・月詠み 日々 細胞分裂・∵.

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

誰かの中の自分 自分の中の誰か

『短編妄想話』

「誰かの手によってネット上に自分の名前があがっているかもしれない…」

私は自分の名前や友人の名前を検索したことがある。
そして、過去の恋人の名前も。
たぶん、多くの人が同じように何度となく試したことがあるんじゃないか。
もしかしたら誰かが私のことを気にかけていて、ネット上で私の名前を検索する人がいるのではないかと想像したこともあった。

でも、いつからだろう。
そんなことは考えられなくなった。 

「自分探しも似合わない歳になってくると、自分に何も期待できなくなる」

会社の飲み会で、呂律の回らなくなった上司が口にした言葉だった。
私は減らなくなったビールジョッキを唇に当てて、無言でうなずいていた。

 

 ー ー ー ー

 

「…うぅ。仕事か…」

目覚めた瞬間に失敗したと焦ったが、今日が休みだったことに気付き安堵する。
頭痛と吐き気に苛まれる度に、二度とお酒は飲まないでおこうと毎度のこと神に誓うのだが、翌日の晩にはその契りを破る。
ただベッドで横になることしかできないの苦しみの中、何気なく手に取ったスマホに見覚えのないアプリが浮かんでいた。
それがこの新型検索エンジンだった。

「Looking down from the sky」

※このアプリは使用するためには会員登録と断続的な奉仕が必要となります。
※欲するのならば、まずは差し出しなさい。

注意事項はそれだけで個人情報の扱いに関する注意点や免責事項がどこにも見当たらない。
どこの誰が作ったアプリなのかもわからない。
なのに迷うことなく、なんとも危なげなアプリに登録してしまった。
検索方法はかなり面倒くさい。
順序立てて検索しなければならないからだ。

「誰が、いつ、どこで、だれと、なにをした」

という具合に、ひとつひとつ検索ワードを足していく。
自分の知りたい人ことをひたすら問い続けることで、その検索したい人のことを探し出してくれる。
例えばAという 「誰かの名前」を入力すれば、その名前の人が検索結果として表示される。
ここまでは他の検索エンジンと変わらない。
だが、ここから先に「A,学生時代…」と掘り進めるには、まず差し出さなければならない。
自分が知っている他人の情報を晒す必要がある。
それによって、次の検索欄が設けられてお尋ね者の足跡を追うことが叶うのだ。
私は幼稚園児の頃に誰と誰がほっぺたにキスをしていたという記憶や、小学生の頃に生徒の作文を朗読して急に泣き出した先生の事、虐められていた人が放課後一人で教室でしていた悪事、バイト先の店長の不倫、同僚の失敗をかばって首になった後輩…のことなど未だに忘れられない思い出やどうでもいいようなことを思い返して、その都度検索エンジンに貢いでいった。

そして、その代償として自分を探し当てた。
そこには、私のよく知っている自分と、忘れかけていた自分がいた。
遠く昔の記憶がよみがえってきた。
泊りがけの林間学校の初日、お弁当をひっくり返して泣いてしまったこと。
覚えのないことで先生に注意され、廊下に立たされたこと。
学校に持ってきた蝶の幼虫が誰かに潰され、その犯人捜しに躍起になっていたこと…。

自分のことが誰かの記憶の中に残っていた。
自分にとって懐かしかったり嬉しかったりと好ましい情報ばかりではなかったけど、酔いがさめるほどに時間を忘れ没頭して自分を探した。
誰かが誰かを調べるために、私に関する情報や記憶をこの検索エンジンに差し出したのだろう。
でたらめな情報を打ち込む人もいるかも知れないし、結果として全く逆の意見でその人が表現されていることもあるかもしれない。

だけど、正さも間違いも嘘でさえも、なぜか愛おしい。 

今日という日。
失敗した、人を傷つけたと思い悩んでいる最中、もしかしたらアナタは誰かを救っていたのかもしれない。

大空から見下ろせば。
きっと誰かがアナタのことを見ていてくれる。

 

 

 ー ー ー ー

 

妄想話でした。