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月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

「真相は穴の中」第二話

俺は村に戻るなり、当時の村長に正直に話をした。
連れ去られた娘たちを敵対する民族の村から連れ出す際、数人の男達に見つかり囲まれた。
これまで多くのケンカをしたが、加減は弁えていた。
でも、その時の俺は見境なく、その男達を殺めてしまった。
相手が本気で闘う姿勢を見せようが見せまいが、そんなことは関係なかった。
どこかでずっとそういうことを思い描いていたのだろうか。
人を殺める術が頭に浮かぶのを何となしに眺めているうちに、その囲いは解かれた。
娘たちを先に逃し、それからは追ってくる者たちをその都度殺めた。
…人殺しは重罪だと昔誰かに教えてもらった。
でも、それがなんで罪になるのかという答えを明確にしてくれた人は、俺の傍にはいなかった。

 

 

「村へ戻らずに、どこかへ行こうとは思わなかったのか」

当時の村長は俺にそう聞いた。
何も答えない俺に対して、村長が次に告げた言葉の意味がよくわからなかった。
私は有無を言わされず「村長」にさせられた。
異民族間での命のやり取りが大きな成果として評価されるとのことだった。
娘たちを連れ戻した件よりも、そちらの方に重きを置くという采配がとられることにどこか辟易したのを覚えている。
他民族への非道は罪にならなかった。
この村の習わしがそういう判断を下した。
もう、それ以外の答えはなかった。

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

「俺の村長ぶりはどうだった?」

村を離れ、山道を登り始め、すこし坂道がなだらかになったところでシュウ兄は私に聞いた。
どことなく少し笑みを含んでいるように感じられて顔をうかがったが、道の先を真っ直ぐ見つめているだけであった。
村長になってからのシュウ兄はこれまでとは人が変わったようにして、村の為に尽力した。大人とかかわる時間が増え、もう小さな私達とは遊ばなくなった。
それでも、時折り遠くから村長を見かけることがあった。
その度に、シュウ兄が村長になって間もなくの頃、あの日の夕暮れを未だに思い出す。
子どもたちがケンカをしていた田畑の近くを通りかかったシュウ兄は、以前はあんなに喧嘩っ早かったのに私たちに言葉で解決することを諭そうとした。
私達は不意にシュウ兄がどこかへ行ってしまったような気がして、しばらく呆然と立ち尽くしてしまったのだった。

 

「立派だったと思います。…いえ、立派です」

私の言葉を耳にして、シュウ兄はやっと笑顔をみせてくれた。
何度も、村仕事から逃げ出したくなることがあったが、そういう時は子どもたちの遊ぶ姿を見て気を引き締めたそうだ。
村の行く末を誰よりも考え、見守ってくれていたのはこの新しい村長だった。
農作物の不作の時、原因不明の伝染病が萬栄した時、常に先頭にはシュウ兄がいた。
これまでの村長は、未明の事態の時にはこれまでの習わしに沿って祈祷を行いひたすら待つということに努めた。
でもシュウ兄は、それと同時に考え得る全ての「可能性」に手を伸ばすのを拒まなかった。
村の外や異国にも文を送り手助けを乞う姿勢には不満を漏らす者もいたが、それらの行動は結果的に有効な措置だった。
思えば、村はそういったシュウ兄の指揮の元、異文化との交流が少しづつ増え、そして少しずつ変わり始めていた。

 

 

山頂を目指して歩く二人の会話は、長くは続かないモノばかりだった。
私はその道の先にある山頂へ辿り着いてしまうことをとても恐れていた。
時折り、笑いを交わすことはあれど、徐々に近づいてくる処罰の時を意識しないということは難しかった。

 

「山の中腹を超え、ここからは少し坂が急になる。それがなだらかになった時、山頂が見えてくるからな」

少し申し訳なさそうに発したシュウ兄の言葉に、私は何も返せなかった。
そこからの会話に、きっと私は何も救われない気がした。
急な坂道に入り、これまでと歩む速度が極端に遅くなった時、シュウ兄はまた口を開いた。
体をすり抜けてゆく風の音が聞こえ始め、随分と気温も冷たく感じていた。
後ろをついて歩くことに精一杯になりつつあったが、聞き間違いでなければシュウ兄はこう言った。

 

「実はあの日、見てはいけないものを見てしまった」

 今、まさに上っている霊山の山頂にある穴から落ちたはずの者が、なぜか異民族の中に居たというのだ。
娘たちを連れて逃げ帰る中、最後に追ってきた者がその元村人だったという。

 

 

ー ー ー ー

 

…つづきます


 

前回の話(第一話)はこちら ↓

 

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