月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を あなたへ -

押入れの天井裏から一冊のノートが出てきた

年末の忙しい時期に引っ越す予定を立てたのは半年も前だった。

転職して三年が経つが、以前の職場に合わせて借りたアパートからの通勤だった為、今の会社への行き来がずっと不便だと感じていた。

 

何か月も捜していた物件の条件としては、少々我が儘なものにした。

・職場から遠からず近からず

・駅から徒歩10分以内の部屋

・中心市街まで電車で30分以内

・公共施設の充実とそこへのアクセスが楽である

・南向きの角部屋

・室内洗濯機置き場あり

・バストイレ別

・都市ガス、もしくはオール電化

・地域独自の参加行事など一切なし

・3階以上で32部屋以上の建物…etc

 実際は妥協する部分がたくさん出てくるのは解っていたから、始めは背伸びしておこうと思ったのだ。

 

結果として思い切って借りた部屋は、それほど妥協せずに見つけることが出来た。一番予定外になった部分は予定していた月額賃貸料金を上回ってしまったという点だ。

でも、近隣の環境も今住んでいるここよりずっといいと思う。

新しい部屋は大きな公共施設がすぐ横にあるが、夜には閉館されている為にその施設のスペースがとても静かだ。休日は外出して昼間は家にいないため、本当に運営しているのかがうかがわしいくらいだ。

 

今の賃貸アパートは北向きで周りの建物がアパートを覆うようにして囲っている為、とにかく日の入りが乏しい。昼間でも基本的には明かりをつけている。

湿気も溜まりやすく、浴室やトイレなどの水回りは少し油断するだけでカビだらけになってしまう。

 

正月休みの2日目が引越し予定日。つまり明日だ。

仕事納めとその翌日だけでワンルームの部屋を片付ける予定にしていた。

これまで使い続けて古くなっていた家具や電化製品は、新居に合わせて買いかえる予定にしていた為、前もって必要ないと判断した物は半月ほど前に粗大ゴミとして全てだしてしまっていた。

もともと仕事以外の持ちものが少ないこともあり、荷物をまとめる作業はすんなりと終わった。

スッキリした部屋を見ているとこれまでの思い出がよみがえってきて、次に借りる人に気持ちよく空け渡したいという妙な目的がうまれてきた。私としては珍しく、拭き掃除に力を入れ始めた。

天井まで綺麗にすることもないだろうと思ったが、押入れを拭き掃除していると全方位を拭いてしまいたい衝動に駆られた。

 

 

…今まで、押入れに顔を突っ込んでこなかったわけではない。

でも、最後の最後にこの押入れの天井部分に切れ込みがあることを知った。

少し押すだけで、その切れ込みの入った板は簡単に外れた。

その板をおろすと、一冊のLIFE ライフ NOBLENOTE ノーブルノート 5mm方眼 A5 N33ノートが乗っかっていた。

パラパラとページをめくってみる。

 

さまざまな人物の氏名が書かれている。本名らしき名前から、明らかに偽名のモノまである。

この部屋に入居した日、そして転居日が書かれている。

一番初めに書き残した人物の入居日は昭和49年〇月とある。

この部屋に入居することになった理由、退去することになった理由が氏名の次に必ず書かれている。その後は各々の自由スペースのようだ。

約40年で、このノートに書かれている人数は20人を少し超えるくらいだ。意外と出入りが激しい気がする。

全ての人が書き込んできたわけではないだろうが、入居日と転居日の間隔を意識すると多くの人がこのノートの存在に気付いていたことになる。誰にも破棄されることもなく、無視されることもなく、この天井裏に在り続けたのだ。

 

面白いものが出てきたという気持ちをもう少し楽しみたいという思いで、先に掃除を済ませてしまうことにした。

 

夕方を前にして、ガランとした部屋で一冊のノートと向き合う。

自由スペースには一言コメントのようにして去っていった住人の言葉が残されていた。

「二度とこんなカビ臭い部屋に住みたくない」

「この部屋で過ごした日々は今後二度と思い出したくない」

という捨て台詞もあれば、

「次の新居では結婚生活がはじまります!みなさんもお幸せに!」

「就職が決まりました!これまでの日々を支えてくれた部屋、ありがとう…」

など、新生活がはじまるという新鮮な気持ちが伝わってくるコメントもあった。

 

私が書き残しておきたいことは何だろう。

いろいろと考えた。

「何かは残したい」と思うのだが、でもその言葉がみつからない。

 

 

あと一晩、この部屋で過ごす。

まだ少し、時間がある。

布団を敷いて横になる。

ノートがあった位置の天井を見つめる。

大袈裟に息をつく。

「明日の今頃、ここにはもういないんだな」と思うと少し心がざわつく。

正月休み前の連日の残業と、今日の部屋掃除で疲れているのだろうか。

何だが眠くなってきた。

とりあえず今日は、気持ちよく眠れそうだ。

 

 

 

 

という、妄想話でした。

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来年の大まかな就業カレンダー(仮予定)を目にした。

今年より連休の日数が少ないような気がする。

新年を迎える前に、なにを凹んでいるのだこの馬鹿者め(´;ω;`)。。

 

  

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