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( >д<);'.・月詠み 日々 細胞分裂・∵.

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

とんぼのめがね は きみいろめがね

『短編妄想話』

一匹の小型ロボットが部屋の片隅で羽を休めている。
今日もプログラム通りに『トンボ』を演じている。

 

 ー ー ー ー

十何年も前のことだ。
子ども用のおもちゃメーカーが手掛けた小型ロボットが流行った時期があった。

「カブトムシ、クワガタ、トンボ、金魚…」

それぞれ飼育ケースや水槽に入れられた状態で小型ロボットがパッケージされており、開梱したその場でペットとして部屋に向かい入れることができる。
はじめは子ども向けの『飼育体験型ロボット玩具』として、色々な生き物をモデルにしたモノが販売されたが、これが見た目に動きも精巧で完成度が高いということで、すぐに大人にもブームが広がった。

しかし、ブームというものはやがては廃れていくもの。
他メーカーから犬や猫の本物としか思えないようなロボットペットが販売されるとなるとすぐに影へと消えていった。

それが最近、テレビ番組の一角のコーナーで「懐かしのおもちゃ」としてとりあげられていた。

現在、このメーカーは全く違う商いをしているが、小型ロボット事業の終わりの方ではロボットの種類を細分化し、金魚ひとつとっても「和金型」や「らんちゅう型」など枝分けされ、ブームが去るまでに100種類ほど販売していたそうだ。
それらがコレクションアイテムとして一部のマニアの中では未だに流通しているとして、番組は締めくくられた。



 ー ー ー ー


あの日は何を目的に、家電量販店へ買いモノに行ったのかな。
でも、彼と一緒に店内をうろうろとしていた時のことは覚えてる。
見切り売りされているコーナーで彼が立ち止まり、照れくさそうにわたしの方へ小さなパッケージを差し出した。
それは「飼育体験型ロボット玩具」のシリーズだった。
箱の写真を見た瞬間、わたしにはそれが『ハエ』に見えた。
それを口に出すと彼は小さく笑って『トンボ』だよと返した。

「そんなの要らないわよ?」

普段はわたしが否定すると簡単に引き下がる彼が「面白いことを思いついたから」といってそれを放さなかった。支払いの時まで、ずっと手にもって店内を歩き回っていた。

彼とはそれから5年ほど一緒だった。
このまま淡々とした日々を送っていくのだろうか、などというお互いの会話もあった。
二人で過ごした日々の中、色々な可能性が見つかっては広がっていった。
けれど、そのまま広がり続けることはなかった。
繰り返しの毎日は、錯覚だった。
わたしたちの未来は終わりを迎えた。
思い描いていたより、ずっとずっと、短い。彼の生涯だった。

彼を残して「毎日」だけがこれまでと同じように訪れ、わたしを彼から遠ざけた。
でも、ある日気づいた。
傍らには彼がプレゼントしてくれた『トンボ』が居た。


 ー ー ー ー


彼は本当に腕が確かなエンジニアだったのだろうと思う。

『トンボ』に手を加えて、ロボット自らがエネルギーを充電したり、空間を学習して飛べるように作り変えていた。
本来は飼育ケース内で収まっていたはずのモノに彼が自由を与えたのだ。
あれから随分と時が流れたが、『トンボ』は未だにこの部屋を自由に飛び回っている。
彼が天井に向かってそっとロボットを放った、あの日から、ずっとだ。

 

 

 

 ー ー ー ー

 

 

…というお話しでした。