嫁はテレビを消すとき、リモコンを俺に向けてから電源ボタンを押す
「本当に消えたらどうすんの?」
「消えないわよ、バカじゃないの」
「…もしもだよ」
「もしも消えたら面白いね」
「面白くねぇょ」
「リモコンで出たり消えたりする男って、テレビに出られるんじゃない?」
「…儲けられるかなぁ」
「まぁ、世界に一人だからね」
「転職か?」
「よかったね」
「でも、すぐに飽きられるんじゃないの」
「そこはキミしだいだって」
「…じゃぁ、やめとくわ」
「…」
「だから!俺に向かってリモコン押すなって!」
「( ゚∀゚)アハハ」
・・・・・・・・40年後・・・・・・・・・・・・
「…テレビにリモコンがあった頃が懐かしいなぁ」
「…ねぇ。アナタに向けて「消えなさい」ってやってたわね」
「あぁ。…確かそうだったかな?」
「そうよ、確かにそうだったわよ」
「…お互いに過ごした思い出話も、こうやって時々は話を合わせないと。
なんだかね、忘れそうになる。ボクは、歳をとったなぁ…」
「そぉ?アナタは昔から忘れやすかったわよ。
…忘れても、こうやってまた思い出させてあげるわよ」
「…あぁ、そういえば。この前の正月に来た孫の映像をまだ見返してなかった」
「いいえ、先週一度観たじゃないの」
「そうか?」
「そうよ!?」
・・・・・・・・さらに10年後・・・・・・・・・・・・
テレビからリモコンが完全に消えた頃、一時的に流行った型のテレビがある。
機能の一つとして、居間の様子をカメラで記憶し続けてくれるテレビだ。
新しく家庭を築いた新婚夫婦が「家族の記録を長年に渡って撮り溜めたい」と一部にだけ売れた小さな家電メーカー「(株)そこにある当たり前」が販売したテレビだ。
ここにそのレトロなテレビがある。
壊れているのでなんとか修理して欲しいと、この修理専門会社に持ち込まれたモノだ。
今は昔と違って、いかに古い家電を使い続けていくかに価値が置かれている。
手に入らない部品を工作機で作り上げる。
記憶媒体は、最新の新しいものにコピーして復元させる。
捨てられそうだったモノが息を吹き返す。
その瞬間がとても好きで家電修理の仕事を続けている。
動作チェックにはいる。
音声認識操作に少しだけ難があるが、注文内容が「テレビに残された映像をみられるように」とのことだったので、そちらの備え付け機能を先に確認することにした。
問題ない。
テレビには持ち主の家庭の記録が映し出された。
このテレビは老世帯が買ったモノのようだ。
映像のはじめの方でブックマークされていた映像を再生してみる。
映し出された小さな子は孫だろうか。
映像を追っていくと、老夫婦の日常が映し出された。
喧嘩をしている場面もあれば、お腹を抱えて笑い合う姿もあった。
お盆、正月に訪ねてくる娘家族との団らんの場面には必ずブックマークが付けられ、いつでもすぐに視聴できるようにしてあった。
成長を重ねる孫の姿に、このテレビを持ち込んできた依頼主の面影が見え始めた。
当然だが最後まで見る必要はない。
依頼主には完璧な仕上がりで手渡そうと思う。
近々、このとある家族の物語に続きが生まれるはずだ。
…という作り話でした。
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…まぁ、タイトルは事実なんですけどね…
(´;ω;`)ウゥ
今日は仕事始め。
明日はどんな一日がまってますかねぇ…。