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( >д<);'.・月詠み 日々 細胞分裂・∵.

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

誰だょ…こんな嘘発見アプリ作った奴…「あなたの真心がわかっちゃうんだもの」

『短編妄想話』

 スマホを私の方へ向けたかたちで、玄関先で彼女と向き合った。

「だいたい3週間ほどだったかな。会話データの『収集完了!』が表示されたのは。密かにね、はじめていたの」

目の前にいる彼女の言葉の意味が、さっぱりわからなかった。

 ー ー ー ー

あの日は五日前だった。
同棲中の彼女は、「一人になりたい」という一枚の書置きを残して姿を消した。
いつも通りに仕事を終えて深夜に帰宅すると彼女の姿がなかった。
彼女へ連絡を入れるが反応がない。
彼女のバイト先に連絡を入れたが、「ちょうど今日、バイトを辞めたところだ」と告げられた。
それから、こうやって今日会うまでに連絡がとれなかった。

二年も一緒にアパートの一室で過ごしていると、突然彼女が消えてしまったという衝撃は思ってもみないほど大きなものだった。
一人で過ごす時間は静かで空しく、落ち着きのないものだった。
普段支えてくれていた彼女の存在の大きさに、改めて気づかされることになった。
思えば、同棲する前の期間も含めるとずいぶんと長い間付き合ってきた。
昔のようにかまってあげることが少なくなったが、こうしてじっくりと彼女について考えることが減ってしまっていたのに「仕事」は言い訳でしかない。

昼間、仕事以外の時間は思い当たる場所を探し回った。
休日は早朝から深夜まで、おろおろと、浮浪者のように徘徊した。
仕事場の同僚に顔色を指摘された時、ようやく彼女から連絡がきた。

「仕事が終わったら伝えたいことがあります。部屋で待ってます」



 ー ー ー ー
 

仕事を途中で抜け出してアパートへ向かった。

「心配したんだぞ!」

ドアをあけると同時に自分でも思ってもみないほどに大きな声が出た。

「早かったんだね」

彼女は静かにそう呟きながら、スマホの画面を私に向けた。
画面には「わかっちゃうんだもの起動中!」と表示されていた。
パソコンの触り方をいまいち知らないし、スマホも必要最小限にしか使用しないようなアナログ人間な私だが、それが最近噂になっているアプリだということだけは解った。「起動中」と出ている画面を彼女がさっとなでると、横書きでノートにメモをとったようにして、私が彼女に向けて話した会話の内容がずらずらと並んでいる。
そしてその会話の一文一文の末端に「〇」か「×」、もしくは「?」が表示されている。

彼女はスマホを引っ込めると、アナログ人間の残党をしり目に「もう、愛されていないんだね」と言い残し、再び私のもとから去っていった。
彼女を探し回っている時、彼女の友人から伝えられたことがある。
彼女が最近流行りのアプリにはまっていたらしいと言うので、そのアプリについて教えてもらった。

『あなたの真心がわかっちゃうんだもの』というふざけた名のアプリで、登録した人の会話データを分析していって、それが本当かウソかを判断するというものらしい。
判断するためには、基本設定の段階で一定のデータ収集が求められるという。
その期間が、わたしの場合は彼女の言う3週間だったのだろう。
「〇」なら本当のことで、嘘を話していると「×」が判定されているそうだ。
「?」の場合はさらにデータが集まることで解析されて表示されるらしい。
そして、このアプリの最大の売りが別売の高額なオプションにあるのだが、きっと彼女はそれにも手を出したのだと思う。
対象者が言葉を発していなくても、アプリの使用者が対象者について質問するとこれまでのデータから「その質問に対しては○○%の確率で対象者は『○▽◇〇』と思っています(考えています)」と予想して画面に表示するらしい。

3週間という期間が長いのか短いのか解らないが、私と一緒に居る間、どんな気持ちでこのアプリを起動してデータを集め続けていたのか、彼女は。

「…いや、悪いのは私だ」

巷ではこのアプリの危険性が指摘され始めていた。
「必ずしも完全な結果を表すものではない…あくまで…」との注意事項がアプリの起動の度に表示されるらしいのだが、なかなかの的中精度の為にアプリ信者が増殖中なのだと問題になっている。
きっと、あのアプリは彼女に「私が彼女を愛していない」という判断を下したのだ。
それを彼女は信じた。

それだけのことだ。 

人の心の真意は奥深くて、複雑で、時に本人でさえ気づかずに、とどまることなく、それでも確かにあるものだ、と私は思っている。

私は婚約指輪を用意していた。
でも、彼女が目の前から消えて、その心にやっと気づいて行動したという時点でもう遅い。後出しだ。手遅れだ。なんなのだ、これは。…なんなのだろう。

この後、私と彼女がどうなるかを質問して答えてくれるアプリというものがあれば聞いてみたい気もするが、そんなものに頼らずとも往々にして選択肢はだいたい決まっている。
もう、私は彼女を追っている。




 ー ー ー ー


…という妄想話でした。