月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

あの頃、ひたすら溜めていた「元気玉」のゆくえ

幼い頃、自分に備わっていると信じていた不思議な力がある。

 

それは、『ドラゴンボール』という漫画の主人公 孫悟空が使う必殺技の「元気玉」だ。

ドラゴンボールZ フィギュアーツZERO 孫悟空-元気玉-この技は、動物も植物も…生きとし生けるもの全てから元気のエネルギーを少しずつ分けてもらって、それを球体にして敵に叩きつけるというもの。

この技は超強力だけど、使う為には上空に手をかざして透かして見れば♪真っ赤に流れる僕の血潮…戦闘中だというのに完全無防備な状態で構え続けなければならない。

元気が集まるまでに多くの時間がかかる。

漫画の中ではその時間稼ぎの為に、他の仲間が命を削ってその剛速球に願いを託すのだ。

 

ただ、私の場合は漫画とは違う部分があった。

都合のいい解釈をする勝手な少年は、「元気玉」は蓄積が可能で集中している時間が途切れても、ずっと上空に維持できているという設定で、更に攻撃したいもの以外は壊れないという地球にやさしい技仕様になっていた。

漫画ではあまりに巨大な力で、星すらも破壊する力だったのが気に食わなかったのだろうか。きっとあの頃の少年は優しい心の持ち主だったに違いない。いや、只単に臆病で責任がとれないと思っていたからだろう。

 

 

私は学校に居る時、授業中だけでなく、休み時間にも気を集めまくっていた。

勉強は苦手で、友達も少なかった。

友達といえば、近所の幼馴染の男の子と、私のように地味で友達の少ない女の子の二人だけに接点があるくらいだった。

女の子は漫画オタクで『ドラゴンボール』が特に好きだった。

元気玉」の話で盛り上がったくらいだが、その漫画つながりで少しだけ会話をするような仲だった。

 

元気玉」を作る時は誰にも見られないように机の中に両手を突っ込み、手のひらを天に向けて気を集めるイメージをしていた。

「大地よ海よ、生きているすべてのみんな、オラに元気をわけてくれ…」のお馴染みの台詞を心に念じて、少しずつ大きくしていった。

 

この地域に何か重大な危機が訪れたとしても、両手を地面に向けて振りかざしさえすれば、どんなに悪い強敵でさえも倒すことができる。

この元気玉を振りかざすときは、僕がヒーローになる時なのだ…。

そんなことを、まぁ、思っていた。

 

最終的に『ドラゴンボール』で例えるならばナメック星で悟空が放ったくらいの大きさまで膨れ上がっていた記憶がある。 

 

そんな少年も思春期に差し掛かり、クラスメイトの一人に恋をした。

恋を知った少年は「元気玉」のことなど忘れてしまっていた。

その女の子はクラスの人気者だった。

地味な少年とは正反対に、とても元気で活発な女の子だった。

勉強もスポーツも抜きん出ていた。

でも、その女の子は少し前まで少年が知っていたはずの女の子だった。

あの、地味で友達が少なかった『ドラゴンボール』好きな女の子だ。

それが気付けば別人のようになっていた。

小学校に通っていても、高学年となれば女の子は急に大人びて来て、泥だらけの男子たちを置き去りにしてしまう時期がある。

遅かった。何もかも。

 

私はまんまとその時期に、今や高嶺の花となってしまったあの子をつかみ損ねたのだ。

 

 

 

正月休み、小学生時代のクラスメイトが集まる同窓会があった。

お酒を飲むと無口な私も少しは饒舌になる。

一際、目を引く人だかりがあった。

中心には初恋の女の子の成長した姿があった。

お酒の力を借りても、こちらから話しかけることも出来ない。

「幼い頃の少年が成長し、そして今の私なのだ」というルーツを辿れたという意味では同窓会の健全な目的を達成できたのではないだろうか。

 

二次会には参加せずに帰ろうと思っていた。

酒の飲めない幼馴染が送ってくれると言ってくれたので、甘えることにした。

「車をまわしてくるから、待っとき」

会場の外で、寒い星空を見上げる。

あの頃、上空で激しく光り輝いていた「元気玉」はもう見えない。

思い返せば、初恋をした頃に見失ったような気がする。

 

後ろから、誰かがやってくる音がする。

振り返ると初恋のあの子がいた。

「一言、お礼を言いたくて。また同窓会しようね」

同窓会の幹事を務める彼女の姿は凛々しかった。

一言二言、会話を続けると幼馴染の車がやってきた。

車に乗り込む前に彼女が更にお礼を続けた。

不思議で、意味深でもあった。

 

「あの時は元気玉をありがとう。変われたのは元気玉のおかげ。わたしは横取りできるんだ」

「…通りである日、元気玉を突然見失ったわけだ」

 

車の中、幼馴染がこちらをチラチラとうかがう視線を感じるが、私は空を見上げておいた。

 

私もお礼を言いたかった。

大切な思い出をありがとう。

 

 

塊

  • 大橋 卓弥
  • J-Pop
  • ¥250

 

という、作り話でした。 

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ま、元気玉は作ってましたけどね٩(ˊᗜˋ*)و

 

…もしかしたら、正月休みに入る手前の今が一番充実しているのではないか。

そんな気がしてきた。