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月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

昼下がりの午後、病院にて。

この国の医療はコンピューターロボットが全てを担っており、
診察、手術に関しては24時間365日行われている。

病院の正面入り口を入ってすぐのロビーにボックスがいくつも並んでいる。
ボックスの中には一台のコンピューターと椅子が置かれている。
個室に入り、診察券をモニター横のリーダーに通すと私のカルテが画面に用意された。椅子に深く座り直してから、軽く息を整える。
【診察ボタン】をタッチすると一瞬で診察が終了する。
ボックス自体がコンピューターになっていて、身体の異変部位を探り、その結果がモニターに表示されるのだ。

毎度のことだが、ちょっとした日常生活の擦り傷や打撲も含めて精密に診断されるので、ずらずらと治療メニューが並んでいくのをじっくりと凝視してしまう。
深刻度が高いものが上から順にランク付けされているので、症状の重いものをいくつかタッチをして選ぶ。
確認画面で治療時間と請求金額が提示されたので【OK】を押して、カード払いで会計を済ませる。
あとは座っているだけで椅子ごと治療室へと運ばれる。
 

「では、治療にうつります」

椅子が勝手に院内を移動し始めるので、そのまま座って身を預けているだけでいい。
まぁ、そもそも身を預ける意思のあるものが行く所が病院というところなんだが、私はというと…と思っている間に用意された部屋に入った。
治療室は患者が選んだ治療患部によって様々な部屋があるそうだ。
投薬で済ませられると判断された場合は、処方箋と領収書がその場で発行され、薬もすぐその場で受け取ることが出来る。
この国の医療はとてもスピーディーで身近なのだ。

 

 ー ー ー ー

 

医療ロボットは色々なタイプがありどれもが高額だけど、自己管理や健康に重きを置いている人は自宅に専用の部屋を設けていて、毎晩診察兼ベッドで寝るそうだ。
寝ている間に体内環境のバイオリズムデータを採り、診断結果から導き出された翌日の食事メニューが提案される。だいたいそういう家はセットで調理ロボットがいるので、翌日はそのロボットが作ったものを食べることになる。
健康とはお金で確実に買える時代になったのだ。
富裕層健康寿命は100歳を超えるが、まぁ、私はそこまで生きられそうにはない。

診察結果には、今日受けた治療よりも優先して受けるべき内容のものがあった。
しかし、私はその治療を拒んでいる。
私は精神疾患としていくつかの症状に蝕まれているらしい。
だが、そのおかげで今の臨時雇用という仕事にありつけたのだ。
今、この仕事が私にとっては安息なのだ。
それが治療を受け、社会復帰が可能であると判断された瞬間に、また地獄をみなければならない。

嗚呼。
私はもう、かれこれ10年にわたって社会復帰と治療期間とを何度も繰り返ししている。
誰かが「働きたくない病」、いや「仕事が出来ない病」というのを病気としてあげてくれたなら、コンピュータが一瞬で治る治療でも処方してくれるのだろうか…。

 

病院を出て空を見上げる。
部屋では常にテレビやパソコン、ゲームで目を酷使しているため直ぐに視力が弱る。
治療室には、そんな私をたしなめる「先生」はもういない。
青空にひっそりと白く浮かんでいる月が、今日はやけにはっきりとみえた。



 

 ー ー ー ー

 

妄想話でした。