読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

( >д<);'.・月詠み 日々 細胞分裂・∵.

- ネットの深海から 泡沫の言葉を放ちます -

断片的な彼女

『短編妄想話』

「テレビってさ、深夜帯で面白かった番組がゴールデンに移ったら、何でだろうね。おもしろくなくなる気がするの」

「そう?気分的なモノもあるんじゃない?」

「寝る前の時間帯と、その…皆さんがお食事なさってる時間帯の?」

「そうそう。実験してみようか?それぞれの時間帯の番組をいくつか録画して交換してさ、一緒にテレビを観てどう感じるかやってみよう」

 

昔付き合っていた彼女とそんなやりとりがあったなぁと、夕焼けに照らされた家々が見渡せる坂道を車でくだりながら、そんなことを思っていた。
確かあれは中学生の頃だった。
部活帰り、ふたり並んで田んぼ道を歩いていた。
当時人気だった深夜帯に放映されていたお笑い番組の改変について、どちらからともなく口にしていたのだった。
本当はもっとこの先の二人についてだとか格好つけて話したかったのだろうが、あの頃の自分は伝えたいことを言葉することがいつも出来ずにいた。
ただ、お互いに好きであるという、目には見えない確信のような瞬間を彼女から感じ取ろうと必死だった。

そうだった。
あの頃はそんな瞬間がなにより嬉くて、そして幸せだった。
結局、テレビ番組に関しては一度も検証することはなかった。
他にも彼女と交わした夢や約束のほとんどが実現しないままに終わった。
その気がなくても、時に人は簡単に口にしてしまうことがある。
ただ、それでも、あの頃は本当になんでもできそうな気がしていたし、何よりも毎日が輝いていた。

 

 ー ー ー ー

 

はじめは雑誌やテレビCMで。
特に最近はテレビ番組内で目にすることが増えた。
私は今、家電量販店のテレビ売り場で最新機種を買おうと意気込んでいる。
普段、意識することなく部屋にあるものなのに、新調するとなると思いのほか気が高鳴る。
この前の型を買ったのが8年前。
その間にも、ずいぶんとテレビは使用が変わっていたんだと知る。
前回もその前もそうだったのだから、きっとこの次もこんな気持ちになるのだろう。

「モザイク設定できる新型テレビがある生活

 『キーワード設定でテレビに新しい風を…』」 

品物の横にそんなテロップが飾られている。
最近のテレビは、設定で見たくないシーンをモザイク処理したりする機能がついている。

例えば犯罪や暴力といった場面を排除したい場合には、設定画面をリモコン操作で開き、現れたチェック項目のボックスに印をチェックすれば簡単に設定できる。
また、同じ暴力設定でも、流血、拳銃、殴打、ビンタ…などかなり具体的にNG設定することが出来る。
NG設定にした問題のシーンはモザイク画面、塗りつぶし、お気に入り画像…などに切り替えられ、音声もミュートにしたり、特定の人物だけ除いたりすることも出来たりと自分仕様でテレビと付き合えるという。

『ニュースキャスターが嫌いでも、ニュース番組のことは嫌いにならないでください!』という手書きのテロップが掲げてある展示品のテレビ画面には、確かに全てのキャスターが真っ白な影にすり替えられ、音声は内臓されている音声機能が全ての人物の声役をこなしていた。


 ー ー ー ー


取引先が集るパーティーで思いのほか酔っぱらってしまい、職場の同僚に介抱してもらうという失態を犯してしまった。
自宅のベッドにまで運んでくれたマッチョな同僚が部屋をじろじろと見て回るのだが、起き上がることも難しく、物色する彼を止められない。

「お前、テレビってあまり観ないとか言ってなかった?ちゃんと部屋にはあるんだな」

「…あぁ…そんなに観ないな」

「ちょっと今、気になってる深夜ドラマがあるからそれだけ観て帰るわ」

「…」

「…もしもし。起きてます?」

「はいはい。起きてます」

「映らないんですけど」

「…じゃぁ諦めてくれ」

「おいおい、何でだよ。あー、これあれだろ?最新機能付きのテレビかなんかだろ?なんで?ちょっとなんでNG設定かけてんの?」

「…ちょっと訳ありで」

「この画面に何も映ってないシーン…人気女優がお嫌いですか?設定でNGになってますけど。映像だけでなく音声までも」

「…うー気持ち悪い。ここまでありがとう…諦めてそろそろ帰ってくれ…」

「ちょっと…それが命を助けてもらった人に言う台詞か?」

諦めなければならないのは私の方だ。
仰向けの姿勢が苦しく、体を丸めてうずくまる。
どの体勢に変えてみても苦しさから逃れられない。
視線の先にはテレビがある。
ベッドから片腕を伸ばして、テーブルのリモコンを手にする。
テレビから男の静かな笑い声が聞こえた。
まだテレビの電源はついている。
真っ暗になって無音になった瞬間、画面の向こうには昔付き合っていた彼女がいるのだ。
電源を切ろうとしていた指が止まる。

「ねぇ。私がもしも映画に出るような女優さんになったらどうする?」

「…俺を捨てるのか?」

「大丈夫よ、置いていかないから。もし別れても、スクリーンの中には私がいるから寂しくなったら映画館に来なよ!」

「…お家で借りたDVDでもいいか?」

「ちゃんと興業に貢献してよね」

「…来月には映画館も潰れてしまうような、こんな田舎の演劇部長が言いますねぇ…」

 

断片的な思い出に縋って生きているつもりはない。
でも、私は。
どうやって彼女のことを忘れたらいいのだろう。

 

 

ー ー ー ー

 

…妄想話でした。