月詠み 日々 細胞分裂

- 泡沫の妄想を放ちます -

『妄想話』

忘却の背中の

母は産まれて間もない私を抱いて、こう言ったそうだ。 「この子は世界地図と一緒に産まれてきたんねぇ」 生まれながらにして背中が痣だらけであった。母の言葉の通り、地図でも描かれているかのようにして、生まれ持った灰色の痣が背中を巡っていた。それに…

右腕を差し伸べて、左手で、

まだ明け方で部屋は薄暗かった。うつ伏せで寝ていたからだろうか。顔の下に敷いていた左腕に、よだれが滴っていてみっともないなと感じる。もう片方の右腕はというと、何かを掴もうとするかのように前方へ伸びている。でもその先には見慣れない壁があるだけ…

「解体屋のたしなみ」

解体屋にも崩せないものがある。 それを俺の業界では「たしなみ」と呼んでいる。

「天の主釣り」

狭い飛空艇の操縦席。唸るエンジン音に耳が慣れてくると震える鼓膜の更に奥、私の脳は静けさを感じ始めていた。人には仕事終わりに一息つく趣味のようなものだと告げているが、本音としてはそんな気の休まるようなものではない。雲を突き抜け、高度が安定し…

あかりのあるへや

そんなことがあるものかと、疑われて当然だとは思うが。喧嘩をしてから実に4年間、私たち夫婦はずっと口をきかなかった。子どもがいない、二人きりの家庭生活を振り返ってみて何があったか。はじめは笑いの絶えない夫婦だったのにな、とそんな思いに耽りな…

微睡みの記憶

医者の言う通り、ものわすれが激しくなっていることをいよいよ認めざるを得ないのだろう。悪い足を引きずりながら居間に立ち竦んで、いったい何のために動いたのかを思い出そうとするのだが答えが見当たらない。昨晩、娘との通話で何を言われたか。それがヒ…

「戦場と書簡と最後の嘘」

「担当の編集者から度々打診されてはいましたが、これまでに自分のことを語ることはありませんでした。そんな私が自分語りするのはどうも不慣れでむつかしく感じるので、小さな頃からのエピソードなどを順に思い返して語ろうと思いますがよろしいでしょうか…

深夜の密会「tell me」

「あ、夫が来ます」 「ではまた、商品についてご不満やわからないことがあれば24時間、いつでも…」 夫が寝室に向かってくる気配を感じたので、担当の相手が最後まで話す前に通話をきる。疚しい気持ちなどない、といえば噓になる。名残惜しい。もっと会話を…

月曜日の俺が殺しに来た、

生き辛さから逃れようとした結果、曜日ごとの人格が7つ形成された。 しかし、それでも問題は解決しなかった。月曜日の「俺」は決心をする。 時は遡れないが未来は変えられる。 月曜日は火曜日、水曜日となきものにして徐々に日曜日を手繰り寄せることにした。…

白い空間『道標』

眠りにつくと白い空間へと誘われる男の話シリーズ。今日の舞台は霊山。

「アリアの肉」

培養された食物が食されることがさほど珍しくなくなった世界の話

よるのほし

寝付けない、ながい夜。カーテンのない硝子窓の外を、ベッドに横になったまま眺めていた。月明かりの下で洗濯物がやわらかに風に揺られている。洗濯物を夜に干すのは、きっと、亡き母を傍に感じられるからだ。母は女手一つであたしを育ててくれた。仕事をい…

傍らの理解者

病室のベッドの上で、今日もめざめてしまった。細やかな雨粒がガラス窓を叩いているのがわかる。 一か月前に交通事故にあって、私の身体はバラバラに壊れた。事故にあったことで記憶の方も定かではない。後に聞いた話だと、私は急に路上に躍り出て立ち止まっ…

アイリスの花言葉

時計を見上げると午後三時を過ぎたところだった。いつも通り、自転車の揺れる影が窓の外から作業場へ入り込んだ。宅配ポストがコトンと音を立てる。もう少し休憩を伸ばすことに決め、コーヒーを入れ直す。作業用のメガネから老眼鏡に付け替え、それから今し…

遅咲きにて狂い咲き

実はこれまで一度も働いたことがない。このままだと近い将来にたいへん困る事態に陥るのではないか、という不安に苛まれたのが幼少の頃で、確か7歳くらいだったと思う。ませた子であった。ひと月も通えなかった小学校、そこから引きこもり続けた日々。3つ…

「手向けの花」

「オークション史上、最高額で落札されたものを知ってる?」 と訊かれると難しいかもしれない。ただ、それにヒントとして植物、または音響器具、スピーカーと付け加えていくとどうだろう。音楽に詳しくない人でもオークションに関心のない人でも、それだった…

AI小説家

目が覚めると、全身がじっとりと湿っていて、首筋から顔にかけては玉のような汗が噴き出していた。思わず首元に手をやると不快感がこびり付いた。嫌な夢を断続的にみていたのは覚えている。職場の上下関係に苦悩している最中、発注ミスが加わり呼び出しをく…

接ぎ木の家で素知らぬ顔

一瞬で情報が地球の反対側にまで飛び、人や物が軽々と国境を越えていく。はるか上空では衛星がひしめき合い、街中では監視カメラが常に日常を記録し続けている。そんな中で、人々はいつでも刺激ある何かを探している。誰かが声を上げればそっちへ群がり、貪…

白い空間『蟻』

みすぼらしい。ドアから少し顔を出し様子をうかがったのだが、そこに広がる世界を覗き込めばそんな言葉が頭に浮かんだ。すぐ目の前にはボロボロの服を着た、背の低い女性の背中が見えた。灰色がかり、枯草のよう垂れ下がった髪が後ろで4つ束ねられている。…

案山子の真似事(かかしのまねごと)

整った容姿。自然なウォーキング。会話の受け答えも難なくできる。「着衣用商業人工モデル」 そんな飾り気のない言葉で説明されても、多くの人にはきっと伝わらない。それなのに、略称や正式名称があったりするのはなぜなのだろう。 人の都合とは分からない…

「死が二人を別つまで」

『健やかなる時も 病める時も 喜びの時も 悲しみの時も 富める時も 貧しい時も これを愛し これを敬い これを慰め これを助け いつか死が 二人を別つまで お互いが 愛し慈しみあうことを 誓いますか?』 ー ー ー ー軽い気持ちだった。街中を彼女と二人で歩…

白い空間『天国旅行』

電車が長いトンネルを抜けるとそれまでの景色は一変し、勢いよく雪が降り始めた。トンネルの上にのびている高い山々に海からの風がぶち当たり、その風に乗った水気が山を越えられずに冷やされ、こちら側は白銀の世界へと変わったのだろう。 今日は連休の初日…

白い空間『炭小屋の篝火』

眠りにつくと白い空間へと誘われる男の話シリーズ。今日の舞台は炭小屋。生き物の焼けるような臭いが…気のせいか。。

三ノ国‐大樹のしずく‐

かつて、この島国は今のように統一された一つの国ではなく、三つに分かれた小国があったと伝えられている。今でこそ不自由なく資源が隅々まで行き届いているようにも感じられるが、その昔は極端な自然環境で国が分かれていたそうだ。 ある国では、渡り鳥が糞…

寄生木の下で

とある学会の研究発表の場で突如、それは起きた。壇上に上がった博士の背中を、枝木のようなものが突き破り這い出てきたのだ。当初、一部のメディアが博士の尊厳よりも事の緊急性を煽ったために、この不気味な映像が一瞬だけ大衆の目に触れた。それからは見…

白い空間『門番』

目が覚めた。何もない白い空間を突き進んでいると、突然、一つのドアが現れた。いつも、この不思議な世界に連れていかれる度に思うことがある。ドアの先には、現実世界にとてもよく似ている部屋もあれば、全くこれまでの価値観が通用しない部屋など様々な世…

人工衛星「よゐ子しゃん」

駅前で信号待ちをしていたら、警察官4人に連れられてパトカーに乗り込む人の影が見えた。 「もう!なんも見えねぇ!」 影は男の声で高笑いしながら、はっきりした声でそう叫んだ。言葉は続いていたが、閉められたドアによって塞がれた。 犯罪を抑止、監視す…

肩身の狭くなった人類のいきかた

世の中は、自分の代わりにAIロボットに働いてもらって生活収入を得る人間と、自ら働く人間とにわかれている。前者は富裕層であり、後者は私のような貧困層でその差は激しく大きいが、上流階級への憧れなんぞはとうの昔に捨てている。早くも労働の場にロボッ…

『FUKUMIMI』

音や言葉を、装着した者が心地よく感じるように変換する「福耳-FUKUMIMI-」という機器がはびこる世界にて。

『ゆびわのいえ』

「ゆびわ」をなくしていることに気付いたのは、タワー型登録借地を昇った後だった。がらんとした平地を前に、左薬指を見つめて呆然としていた。「ゆびわ」が手元にないということは、身に着けているもの以外のすべてを失ったということになる。電話も財布も…

宇宙飛行士のうた

ー ○○さん、宇宙飛行士として、 宇宙から地球を眺めた今、思うことはありますか? -「…あのですね…たぶん、それなりに言葉を用意してきたはずなのですが、それが今の心境に合わないからでしょうか…。ごめんなさい。やっぱり、それらしい言葉が出てきません…

遺思~妻とまだ見ぬ我が子へ~

二人で、静かに食事をしていた。少し離れたところで、テレビが音を立てている。ニュース番組は「少子高齢化問題を抱える政府の試み」と題して、ある一組の老夫婦を取り上げていた。その夫婦は、子どもを育てるだけの経済的余裕がないままに結婚し、30年が…

『雨上がりのテロップ』

ー いじめに遭うのがホントに辛いので、計画的に死ぬことにした ー 突然体に衝撃を感じて、倒れ込んだ。誰もいないと思っていた廊下の影から、スカートを揺らしながら足早に三人が去っていった。世の中では、いじめられている人は周りに助けを求めず、じっと…

深海図書館

歪(ひずみ)というものがある。どんな世界にも、何ごとにもだ。 この海底はきっとそういった場所の一つなのだろう。ゆっくりと花びらが舞うようにして、光を揺らしながら本が降りてくる。ようやく安楽の地に巡り合えたのだ。今日も、どこかの言葉で書かれた…

飛び出し君との思い出

娘と横断歩道前で信号待ちをしていると、ふと昔のことを思い出した。 新型の飛び出し君のことだ。

遅ればせの育児

「集団生活保護施設」に身を寄せる初老の男が育児を任せられることに

伸るか反るか?乗れよ!

未来の交通事情における男女の行方。それを見守るドライバーは無人君。

深夜のコイントス

30独身女のささやかな楽しみ 深夜の賭け事

ならず者たちの巣くう島

この世の中には様々な国があって、肌の色や目の色、話す言葉が違う人達が集まって一つの世界で生活をしている。そして、各々の国で蔓延っている歴史に文化、宗教というものがあることをわたしは知っている。…島から一歩も出たことがないのに。 ー ー ー ー …

誓いの言葉

少子化対策として国は満30歳以上の独身男女に「擬似結婚」を義務付けた…

「真相は穴の中」第八話(最終話)

村長と少年は霊山の山頂に辿り着いた 村長は手荷物の中からあるものを取り出し、穴に鎮めると口にした

「真相は穴の中」第七話

上から食べ物も何も降ってこなくなるとラッカスは体調を急に崩し始めた。急ぎ穴の外へと出ようと正体不明の者と計画を進めるが…

「真相は穴の中」第六話

穴の中で二人の男は出会った。 「見送られ死ぬはずの者」と「人知れず生きていた者」 やがて二人は交じり合いだした。

「真相は穴の中」第五話

霊山の穴の中で待ち受けていたのは、何者かの気配だった。こんな暗闇の中でどのようにして生きているというのか。 不気味な視線を感じる中、さらに予想しなかったことが起きる。 突然上から物が落ちてきた。 監視する者と幇助(ほうじょ)する者。 何者か達…

「真相は穴の中」第四話

死んだはずの男が目の前に、生きていた。 彼に思いを寄せていた娘は、彼が霊山の穴に入ったあの日を振り返る。 男は穴の中へ村の祭りでこしらえた梯子を伝って、一歩一歩、穴の底へ降りていった。

「真相は穴の中」第三話

村から連れ去られた娘たちを連れ戻り、事件を解決したことが評価され、多くの「歳」を与えられるきっかけになったのだと「元」村長は語った。ただ、その時の帰り道、以前霊山の穴に葬られたはずの幼なじみと出会ったのだと言い出した。

「真相は穴の中」第二話

突然開かれた減歳会議。なぜか裁かれたのは若くして村長になった男だった。 彼に憧れていた少年は、「元」村長から霊山の山頂に向かうまでの道を一緒に行かないかと誘われる。 重苦しい空気の中、「元」村長は自分が若くして村長になった経緯を語り始めた。

「真相は穴の中」

この村では行いが認められることで歳を与えられる。逆に過ちを犯せば「減歳会議」が開かれ、歳を取り上げられる。もしも零歳になってしまったら、村を見下ろす高い霊山の山頂にある底なしの穴に突き落とされるという罰が与えられるのだ。

海をたゆたふ

人が「人とは異なる生物の遺伝子」を身体に取り入れて、新たに違う人種となること。それが神の意志に反する行為だと多くの者がいう。小さな頃、人間は違う生き物の遺伝子を口にすることで生き永らえているのに、その消化された生物がはっきりと目に見える形…

「この子」のいる書店

それはある日、この小さな書店の中へ飛び込んできた。 少し遅いお昼ご飯を食べ終わり、店番をしていた妻と交代したところであった。いつも通り、時刻は二時を過ぎた頃であっただろう。その時は、確かに店の中に客は一人もいなかったはずだ。 「おい、居るん…